サカナクション「SAKANAQUARIUM 21.1(B)」

Filed under: LIVE REPORT — タグ: — LUCK'A @ 2010.10.16

サカナクション
「SAKANAQUARIUM 21.1(B)」
2010.10.8(FRI)
@日本武道館

 僕が某大型音楽ポータルサイトに「今年大ブレイクが予想されるアーティスト」として挙げさせてもらったのが今年の頭。そして、アルバム『kikUUIki』とシングル「アイデンティティ」の2度に渡るボーカル&ギター山口へのインタビューと、この夏フェスでのコンサートグッズ中のバスタオルの制作。そしてこの日の武道館ではラバー製ホネ君USBを作成…。
 振り返ると我がラッカにとって今年は、サカナクョンに急接近できた年でもあった。そしてグッズ制作/取材共に彼らにとってエポックな急発展の年に立ち会えた幸せは、この上ない。

 そんな彼らの初の武道館でのライブ。我々もがぜん張り切り、会場へと足を運んだ。

 ステージ後方のビジョンには、今回のライブタイトル『SAKANAQUARIUM 21.1(B)』のロゴを中央に配し、気泡が上がっていく映像が繰り返し映し出されている。加え、アクアラングのようなSEや水面下を思わせる天井に映し出されるプロジェクターライトが、我々を深い海の底に居る気分にさせる。
 ターゲットマークのステージには、いつもどおりのフォーメーションで各人の機材がセットされ、その回りをモニターとステージライトがぐるりと囲む。それが彼らの今日のステージの広さを表わし、この会場では両スタンド近くまで伸びることが多い舞台袖も、そこまで伸ばしていないところが、反対にこの日の彼らのコミュニケーションの枠のような気がして興味深い。

 19時5分付近。会場の照明が全て落ち、地響きのようなSEと共にビジョン内に現れた彼らの「骨ロゴ」が泳ぎ出す。水面に向け気泡が増え、浮上し宇宙へ。雨だれもしたたり、それが雷雨を呼ぶ。そんな映像に交じり、オペラ調の聴き覚えのあるフレーズが現れ会場が一層どよめく。そこにトランシ―なウワモノと大音量のビートが加わり、1万1千人の手拍子の中、メンバーがステージに登場。そのまま「Ame(B)」に流れ込む。ボーカル&ギターの山口の煽りと高々と掲げられた右腕が会場を扇動し、重厚なオペラコーラスとピークに導くが如く江島のドラムのフィルが至福感とエクスタシーを生む。中間部では、いつもの如く”ここだ!!”とばかり、それまでベースアンプに寄り添うように弾いていた草刈もステージ前方に飛び出す。途中のギター落ちを挟み、「ブドーーーカーーーン」との山口のシャウトと共に再度バンド・サウンドに戻る箇所は、のっけから鳥肌もの。早くも彼らが武道館でプレイするに充分な器量であることを立証する。続いて岩寺のオリエンタルなギターフレーズとダンサブルな16ビートが会場に響き渡る。「ライトダンス」の登場だ。歌詞の「でも、明日が見えなくて」で会場もレスポンス。間奏部では草刈のチョッパー交じりのベースソロも会場を坩堝へと惹き込む。ここから更に坩堝に引き込むべく緊迫感のある「セントレイ」に飛び込むと会場も狂喜。ダンスも激しさを増す。もちろんサビでのパーッと広がる箇所では会場中が解放感でいっぱい。点と点が線で繋がり、見えなかったものが見えた瞬間だ。
 まだ彼らはダンサブルさの手を緩めてはくれない。続いての「アドベンチャー」では、岩寺のギターリフに岡崎のシンセが重厚なフレーズを重ね、会場も合わせて大きくうねる。ファンキーさと聴く者をキュンとさせる同居は彼らの面目躍如。山口の歌詞も一瞬とぶが、ここはご愛嬌。ノンストップでライヴは進む。次の「Klee」では、江島のタイトなスネアが会場に躍動感とジャスト感を生み、サビのロールがブレイブ感と、そのセンチなフレーズとの対照感を楽しませてくれる。間にはダビーな部分も挿入。それが後半のスリリングさと緊迫さを増大させていた。後半の江島の怒涛性と山口の「始まりです」のリフレインが〈今日も最後までグイグイ行くゼ!!〉とのマニュフェストのように響く。

 ここでMC。山口が「サカナクションとしてのロックエンタテインメントを今日はたっぷり体感して帰って欲しい」と挨拶。続けて、先ほど緊張して歌詞がとんだことを告白。「僕も武道館は初体験なので、一緒に楽しんで帰りましょう」と上手く締める(笑)。
 そんな山口が愛用のリッケンバッカ―からアコギに持ち替え「フクロウ」が始まる。ダイナミックで雄大。だけど、ちょっとしたセンチさと寂寥感に会場全体が浸る。感傷性を帯びたナンバーは続く。次は岡崎のシンセの音色も印象的な「涙ディライト」だ。江島のダンサブルではない16ビートと草刈のベースがセンチさを醸し出す。そのカウンターのようなサビでのギターのファンキーなカッティングにも注目。同曲の間奏部では会場もクラップで応戦し、ささやかな演出を加える。前曲の余韻の中からアジア的で雄大なイントロが現れる。続いては「アンダー」だ。後のビジョンにブルーをバックに70年代ロックバンドのプロモビデオの如く、ゴースト加工された各人のプレイが映され、後半にはそこにくらげの軟体的な映像もオーバーラップ。それが更なる幻想さを曲に加え、まるで深海魚の気分にさせる。冒頭では大陸さを感じていたのに不思議だ。深海魚になったかのような曲は続く。次の「シーラカンスと僕」では、歌の寂寥感とサビへと向かうダイナミズムのコントラストが曲に更なるドラマ性を注入。ロングなアウトロが会場の一人ひとりに独特の孤独感を味あわせる。


 
 続いては無数のレーザー光線のショータイム。「マレーシア32」「21.1」「Paradise of Sunny」がトランシ―でトライバルなビートに乗り、メドレーでプレイされる。的確なリズム隊の上、岩寺のギターと岡崎のシンセが自由に泳ぎ、山口もステージ前方を右から左へと踊りながら客席を煽る。そこからダブ・アレンジされた「21.1」に突入。草刈のファットなベースラインと岡崎のウワモノの音が伸縮を繰り返し、独特のダビーでスモーキーな雰囲気が瞑想空間へと誘う。
 「みんなが聴いたことのない新曲を演ります」とは山口。ミュートがかったギターイントロと琴の音色っぽいシンセ音、寂寥と静かな歌と思いきや、中間部の一瞬の広がりと再びのミニマル感、そしてラストに向けての広がりが印象的な曲が披露される。そして、岡崎によるピアノと山口の歌い出しから始まった「ネイティブダンサー」では、会場も歌に合わせてクラップで応戦。そこからバンドが加わってのセンチな気持ちを引きずりつつも踊り出したくなる感じは彼らならでは。途中のレーザーによる雪の演出には会場中がハッと息を飲み、まるで淡い雪になった気持ちに浸る。
 パーカッションによる躍動さを繋ぎに、「インナーワールド」に入ると、フロントの3人もステージ前方にてプレイ。見たことのない絶景へと誘ってくれる同曲に会場中が自身のインナーワールドを巡る。フュージョン感溢れる岡崎のシンセソロもたまらない。高揚感から急転。今度は郷愁感に。続いては「サンプル」だ。初期からプレイされていた同曲も今日はことさらダイナミズム感が漂う。間奏部分では”煙幕か!?”と見まごうばかりにスモークも大噴射。そこから再び歌と共にメンバーが現れるさまは、さながら歴代の武道館でのロックスターの如く。ダンサブルだが独特の寂寥感を擁した曲は続く。次は「三日月サンセット」だ。この曲も明らかに以前とはスケール感が違う。自身の歌世界へと惹き込みながらも、しっかり聴き手各人の歌世界への思いを馳せさせるところはさすがだ。

 ”ここからはラストスパート!!”とばかりに、「アルクアラウンド」が登場し、会場中も驚喜。山口も満面の笑みを浮かべ会場中を躍らせる気満々だ。分かっちゃいるけど、サビの部分がくると会場全体がまんまと満面の笑みで躍りまくる。うーん、幸せ。このサビにくるまでの寂寥感が後のこの至福さと開放感を生んでいるのは明白だ。ノンストップでパーカッションの土着性が会場に響き渡り、そのアフロなビートに会場中が揺れる。続いての「アイデンティティ」でもみんな驚喜乱舞。1万1千人が各々「アイデンティティがない」と歌い、躍り狂う。ありえない一体感だ。これが以前山口が僕に語ってくれた、<信じがたい光景>かと実感。いや、この日の山口はきっとこの光景に、「みんな充分にアイデンティティを持っているよ」と応えてくれたに違いない。
 ステージから放つ音が無音になり、会場が再び真っ暗になる。ステージ中央に設置されたシェードランプが灯され、山口の歌い出しから本編最後の「enough」にインする。歌の一語一句を聴き漏らすまいと耳を傾ける会場。2番からはそこにバンドも加わり、悠久さと広がり、そして景色観を加えていく。ラストは再び山口の歌のみに戻り、しっとりと終了。

 アンコールは山口のMCから。「インタビューでは<武道館は通過点>なんて言ってたけど、やっぱりここでのプレイは凄く気持ち良い。あと5回ぐらいは演りたい(笑)」と語り。そこから各人のコメントも交えたメンバー紹介を行なう。そして、「以前、『2度と演らない』と言ったけど、演らせて下さい」と、「GO TO THE FUTURE」を始める。不思議な3拍子によるワルツ感が会場に幻想を生む。岩寺のギターも雄弁に語り出し、バンド全体がこの曲のラストに向け、言いようのない包容力とダイナミズムで会場を包む。
 ここで山口が再びMC。今日はサカナクション結成時一発目のライヴの動員の実に100倍のキャパであったこと、音楽の聴かれ方の過渡期に自分たちがデビューしたこと、そんな時勢の中これからも奮闘していくこと、今日はライヴであり、ショーであり、クラブでもある、それをみんなに見せたかったし、見せることが出来て感無量であったこと等を告げる。そして「白波トップウォーター」をプレイ。ポツンとしているんだが、どこか優しさを帯びた同曲に、会場中が今日のこれまでの彼らのステージを振り返る。

 ダブルアンコールでは、前回のツアーでも再現を立証済み。アルバム『kikUUiki』の中でも白眉であった大曲「目が明く藍色」がプレイされる。組曲然とし、目まぐるしいながらも、最後に辿り着く安堵感は言いようがない。ラストの会場も交えてのラララの大合唱では、ステージの神々しさと共に会場中がこの上ない至福感と満足感に包まれる。
 彼らがステージを降りた後のビジョンには、このステージを作り上げた、「チーム・サカナクション」のクレジットロールが映し出され、その最後の「MANY THANKS TO AUDIENCE」の文字に、この日のステージがサカナクション、そして会場のオーディエンスと共に作られたことを再確認する。

 ライブ終了後。山口に会って本日の感想を聞いたところ「武道館では普段出来たことをすることが難しく、普段出来ないと思っていたことも、気づくとスッとできていた。やっぱり、あそこには魔物が棲んでますよ。だけど、その壁を越えればまた何か新しい景色が見えるんでしょうね」と力強く語ってくれた。
 この日のライブ中、何度か伺えた、”やった!!”という山口の表情。その達成感と征服感の先にある〈サカナクションのネクストドア〉が、この言葉から垣間見れた気がした。

Report : 池田スカオ和宏


【SET LIST】

1.Ame(B)
2.ライトダンス
3.セントレイ
4.アドベンチャー
5.Klee
6.フクロウ
7.涙ディライト
8.アンダー
9.シーラカンスと僕
10.マレーシア32 ~ 21.1 ~Paradise of Sunny
11.新曲(タイトル未定)
12.ネイティブダンサー
13.インナーワールド
14.サンプル
15.三日月サンセット
16.アルクアラウンド
17.アイデンティティ
18.enough
Encore
EN-1.GO TO THE FUTURE
EN-2.白波トップウォーター
Double Encore
W-En-1. 目が明く藍色


【MEMBER】

Vo.&G. 山口一郎
G. 岩寺基晴
B. 草刈愛美
Key. 岡崎英美
Dr. 江島啓一


【PROFILE】

2005年、地元札幌で活動開始。道内でのライブ出演を重ね、2006年8月「RISING SUN ROCK FESTIVAL in EZO」に一般公募選出としての出演。これを機に注目を集め出し、2007年5月、1st Album『GO TO THE FUTURE』、2008年1月、2nd Album『NIGHT FISHING』を発表。その夏にはニューカマーとしては最多の8本の野外大型フェスに出演。同年12月には1st Single「セントレイ」、続いて2009年1月には3rd Album『シンシロ』を発表。その冠ツアーは全国の全会場でソールドアウトを記録する。2010年1月に発表した2nd Single「アルクアラウンド」はセールスチャート上位にイン。同年3月には4th Album『kikuuiki』を発表。こちらもチャートの上位を獲得した。それを経ての全国ツアーは、前回を上回るキャパシティながら全箇所ソールドアウト。2010年8月にはニューシングル「アイデンティティ」を発表し、10月8には初の武道館ライヴを敢行。チケットは早期ソールドアウトを記録し、大成功を収める。


【NEW ITEM】

4Th ALBUM
『kikUUiki』
VICL-63557
¥2,800(Tax in)

M-1. intro=汽空域
M-2. 潮
M-3. YES NO
M-4. アルクアラウンド
M-5. Klee
M-6. 21.1
M-7. アンダー
M-8. シーラカンスと僕
M-9. 明日から
M-10. 表参道26時
M-11. 壁
M-12. 目が明く藍色
Extra Track
M-13. Paradise of Sunny

3rd SINGLE
「アイデンティティ」
VICL-36603
¥1,200(Tax in)

M-1.アイデンティティ
M-2.ホーリーダンス
M-3.YES NO (AOKI takamasa remix)

NOW ON SALE
【ビクターエンタテインメント】


【LIVE SCHEDULE】

http://sakanaction.jp/live/


【ARIST HOME PAGE】

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