ハイスイノナサ 動物の身体リリースワンマンライブ
ハイスイノナサ
動物の身体リリースワンマンライブ
2012.8.11 @ 渋谷O-NEST
この日、ハイスイノナサは、彼ら初となるワンマンライブを見事に成功させた。そして、それは同時に、彼らの集大成でありながらも新しい姿も見ることができた一夜でもあった。
初めてのワンマンにしてチケットはソールドアウト。大勢のお客さんが来てくれた喜びはもちろんのこと、それ以上に、この新体制にて2時間半に渡りきっちりと自分たちのライブができた達成感や満足、そして乗り越えられた安堵感は、彼ら自身にとっても推して知るべしだったのではないだろうか。
今年2月のキーボード田村の脱退により、4人組となった彼ら。そして、彼らの音楽的要素の中でも高い特異性を保っていた、現代音楽的な要素や構築性、ミュージック・コンクレート性を彼が多分に担っていた印象を持っていただけに、その脱退はちょっと信じられないものがあった。と同時に、”今後バンドはどんな方向に向かうのだろうか?”とも。
しかし彼らは、その失った要素を違ったファクトで補い、それを新しい特異性へ結びつけた。そしてそれは、これまでのアカデミック度を保ちながらも、今まで以上のポピュラリティと良い意味での親しみやすさや聴きやすさへの昇華へと向かわせ、結果、作品ではそれが大成功を収めていた。
そのファクトこそが、鎌野の歌や声。これまで楽器的なニュアンスの強かったそれらが、今作ではきちんと意義と意思を持ち、それがより楽曲に神秘性とバロック的な温かみや緊張感を改めて寄与。加えて新たなる役割分担により、その困難を乗り越えることに結び付けた。また、それらはこの日のライブにもきちんと現れていた。各人が資質的に持っているそのプレイヤビリティとミュージックセンスに於いて、見事に再現された作品性と、ライブならではの臨場感や場当たり感を伴って、この日のライヴは我々の眼前に披露された。
今回、我がラッカは、彼らのこの記念すべき1stフルアルバム『動物の身体』のジャケットデザインと、グッズ類のデザインと制作担った。
まずはジャケットデザインから。 ハヤブサそのものをトリミングして使われたそのデザインは、表紙、インレイ共に彼らが持つ“透明感”を意識した写真の加工を施し、一見ナチュラルに見えるが、“生”っぽさを極力抑えた繊細な色使いになっている。また、歌詞カードやレーベル面は、バンドが持つ繊細なイメージを踏襲した細い線画から成り立っており、“街”を表現してみたという。
続いてグッズ。Tシャツのデザインは都会のビルの風景の一部を切り取ったもので、さりげなくジャケットにも登場した鳥がどこかに隠れているのもポイント。そして、そのボディは、バンドのイメージに合わせ、薄手の柔らかいアパレル使用のものを起用した。また、同時発売の四角い2種の缶バッヂは、Tシャツのデザインを反映したものの色違いにてそれぞれ制作した。
ざわざわしながらも程よい緊張感が、このO-NESTに満ちている。会場は立錐の余地の無いほどパンパンだ。まだ現れぬメンバーたちを待つステージは、通例よりも深い奥行きだ。それもそのはず、後述するが、この日は4人のメンバーに加え、コーラスとキーボードがパーマネントにてサポート。しかもフォーメーションもかなり変則的ときている。しかし、それは決して奇をてらったものなどではなく、各楽器の動きの確認やアイコンタクトがとり易いが故のことと思える。
上手(かみて)、下手(しもて)から別れて、それぞれメンバーがステージに現れる。下手から、コーラス、ギター、真ん中に下手側を向きにした鍵盤ボーカル、奥まってベース、シンセ、そして上手横向きにドラムという、鍵盤&ボーカルの鎌野愛を中心に、各メンバーが弧を描くように位置するフォーメーションに就く。スタンバイを終え、アイコンタクトを取りながら、最初の一音を待つ中、ギターの照井順政を皮切りに、鎌野、この日のサポートのシンセの森谷一貴、ベースの照井淳政、ドラムの中村圭佑が音をそこに加えていき、1曲目「都市の記憶」の輪郭を明確なものにしていく。幻想と神秘をたたえながらも、どこか現代音楽的なコンクレートさがあいまったアンビバレンツな調和に、いきなり彼らの魅力であり真骨頂を見せつけられた気がした。中村がマスロックライクなドラミングで繋ぎ、そのまま続く「通り雨」に。ここで女性コーラスの出川美樹子(テキサスパンダ)が現れ、2声が楽曲に程よいスイートさと包容感、神秘性を増させていく。続く、インストナンバーの「mass」は、淳政の6弦ベースが楽曲を引っ張っていくナンバー。躍動感とファンキーさが狂おしいほどだ。ラストの激部では会場も呼応。ギター、ベース、シンセのアクションも激しくなっていく。続いて飛び出してきたのは、まるで穏やかな激流にでも飲み込まれているような「均質化する風景」。ノイズの洪水のようなギターの中、耽美的な美しさが見隠れしていく。
ドラムにグリッチ音、鎌野の歌い出しから「ガラス」が始まる。同曲に入ると、これまでになかった疾走感と激流感が会場に襲ってくる。これまで楽曲に浸るように楽しんでいたオーディエンスの動きも活発になり、フロア前方の密度が上がっていく。とは言え、この曲はキチンと抜き差しもなされており、それがモチーフへと戻った時に、とてつもないカタルシスを呼び起こす。それと同時にスッと提示してくる美しさ。後半は中村が狂ったようにドラムソロを交え、そこからラストへの激走へと会場を並走させる。
「明日があるなでお馴染みのハイスイノナサです」と順政。続けて、これまで使ってきた、彼らのMCの常套句でもあった「アナルがあるな」を、この日より封印するとの宣言がなされる。とは言え、最後まで「アナル」を常套。あまり本意ではないようだ(笑)。
「今日はワンマンで曲も沢山やれるんで、静か目の曲をやるゾーンを設けました」と、順政が言い終わり、用意されたイスに座り、アコギに持ち替え、「想像と都市の子供」を始める。アンサンブルとその調和を持って、じわじわと美しさが楽曲と共に会場全体に広がっていく。リバースさせた残響を残し、次曲の「波のはじまり」へ。同曲ではAureoleからフルートの森彩子がゲストとして呼び込まれ、ギターアルペジオと森のフルートが涼しさを楽曲に絡ませる。記憶をゆっくりと辿り、ひも解いていくように優し気で柔らかい歌が、まるで遠い記憶でも呼び起こしてくれるようだ。クラシックギター的な奏法による「落下から衝突まで」の中、淳政もアップライトベースに持ち替え、続く「モビール」が始まる。シンセの音に各楽器が、そして歌が順に乗っていき、絶妙な調和が生まれていく。
ここで2人目のゲストとしてthe cabsの中村一太が呼び込まれ、鎌野と中村の間に用意されたパーカッションに座り、「ensemble 1」へと入る。難解で複雑な作品でのアンサンブルがここで見事な再現を見せ、後半では、鎌野の歌と順政によるハミングが優しく重なり、楽曲の描き出す光景感を更に引き出して行く。
中村がリムショットでつなぎ、淳政がシェイカーでリズムを刻む。続く「地下鉄の動態」では、感じられるポリリズムの中、淳政のベースで楽曲に疾走感を加えていく。中盤では、これまた淳政が超絶なプレイを。楽曲に躍動感と生命力が加わっていく。ギターの乾いたカッティングから「ハッピーエンド」に。彼らの中でも一際アガる、ライヴでの代名詞的盛り上がりナンバーの登場に、これまた例外なく会場の”待ってました!!”の歓声を送る。高揚感たっぷりな同曲に2声の涼しげな歌声が、絶妙な激しさとエモーショナルさにマイルドさを寄与。それがベストマッチを見せる。言わずもがな、この曲では大盛り上がり。フロア前方の密度が最も上がった瞬間だった。
ここで鎌野のMC。なんともロリータ声でかわいい。あの凛として神秘性を湛えた佇まいとはあまりにもギャップのある、その甘いしゃべり声に、会場の男性陣がメロメロになっていく(笑)。「しゃべるとバンドの雰囲気が壊れる」ということで、この5年間、ステージにてしゃべることを封印されていたという彼女。今日、このワンマンに、みんなが来てくれたことへの感謝の意を述べる。
中村のスティックによるカウントから、幾何学的なキーボードが絡み「少年の掌」に。淳政も白玉多いフレーズを放つ。次曲「森と照明」では深いエコーのかかったドラミングの中、途中ギターが深淵性たっぷりでいてヒステリックなカタストロフィーギター加え、それがことさら美しさのコントラストを引き出していく。「LOGOS」では、ひときわ中村の手数も多くなり、激しいドラミングとスライドを活かした淳政のベースが会場の高揚感を煽る。中盤の難解さと緻密さ、そして神秘性が同居した同曲のバースは一種の聴きどころ。アウトロのリズム隊によるソロが会場の高揚感に、さらなる火を点けていく。
ピアノによるアンサンブルから始まった「平熱の街」では、例えようのないダイナミズムと高みへと会場を誘う。この曲では、フロア中が拍子に合わせクラップで応戦。ただし、かなりの変拍子なので若干合わせずらい(笑)。それを我関せずで楽曲は進んでいき、とてつもない大海へと観る者を誘っていく。
ここでこの日、バンドの後ろのスクリーンにて、楽曲とシンクロしたり、視覚的な部分を独特の映像で担っていたVJ担当の中村と、終始鎌野の歌声にさらに神秘性やバロック性を加えるかのような、ぬくもりのあるコーラスを提供していた、テキサスパンダの出川がここで紹介され、メンバーから2人への感謝が述べられる。
「これまで友達もいなかったけど、今ではすっかり聴いてくれる人も増え、今日もリハの時から、多くの人に見守られていて感極まっていた」と語る順政。「ようやくフルアルバムを出したけど、これからもしっかりとこの4人で演っていく」と力強い宣言を続けてしてくれる。
ラストは「動物の身体」。徐々に高みへと、そしてラストはとてつもない眺めの良いところに会場全体を誘う。激しさと孤高性を残し、メンバーはステージから去って行った。
アンコール。「ノッていいのか?聴いていいのか?つかみどころのないバンドですまん」と順政が笑う。淳政が再びアップライトベースへと持ち替え、ひんやりとしつつ幻想性な「ある夜の呼吸」に入る。そして、ここでようやく疾走性のある、前のめりな曲が現れる。アンコールのラストは「Circle」だ。中盤から会場に向け襲ってくる激昂具合がたまらない。凄いカタルシスだ。今までの沸々とした気持ちを一気に吐き出すように、メンバーたちのアクションも合わせて激しくなっていく。会場もこれまで以上の動きを見せ、ステージフロア共々秘めた狂気さを見せ、やり遂げた達成感に浸るように彼らはゆっくりとステージを降りていく。”凄かった!!”、そんな観後感だけを会場に残して。
ダブルアンコールに応えてくれた彼ら。順政が「みんなどうせハッピーエンドが聴きたいんでしょ」と、乾いた、それでいてエキセントリックなギターカッティングが場内に響き渡り、再び大きな歓声が沸き起こる。”待ってました!!”とフロアの密度が更に上がり、その最後を謳歌するように大勢の人がフロア前方にて軽いモッシュを行う。そこはかとないスリリングさを醸し出している同曲。サビではいきなり、フロアを高みへと引き上げる。
順政の”ヤッター!!”的に何度も天井に向け、突き上げられたガッツポーズが、この日のライヴの充実感と達成感を物語っていた。そして、そんな彼らの充実感を後押しするように、お客さんたちの満足げな表情が終演後の会場に広がっていった。
Report : 池田スカオ和宏
【SET LIST】
1.都市の記憶
2.通り雨
3.mass
4.均質化する風景
5.ガラス
6.想像と都市の子供
7.波の始まり
8.落下から衝突まで
9.モビール
10.ensemble
11.地下鉄の動態
12.ハッピーエンド
13.少年の掌
14.森と照明
15.logos
16.平熱の街
17.動物の身体
ENCORE
18.ある夜の呼吸
19.Circle
DOUBLE ENCORE
20.ハッピーエンド
【MEMBER】
Vo.&Key. 鎌野愛
G.&Cho. 照井順政
B.& Per.照井淳政
Dr.&Per.中村圭佑
That Evening Support
Key. 森谷一貴
Cho. 出川美樹子(texas pandaa)
【PROFILE】
音楽の新しいあり方を追求する四人組
【NEW ITEM】
1st full album
『動物の身体』
ZNR-120
¥2,300(tax in)
【残響レコード】
NOW ON SALE
1. 動物の身体
2. ある夜の呼吸
3. 地下鉄の動態
4. 波の始まり
5. 水の形、面の終わり
6. logos
7. モビール
8. 森と照明
9. 落下から衝突まで