キノコホテル「サロン・ド・キノコ~水も滴る好いおんな・恵比寿編」
キノコホテル
「サロン・ド・キノコ~水も滴る好いおんな・恵比寿編」
2012.6.16 @恵比寿リキッドルーム
この日、出だしのマリアンヌによる澄んだスキャットと、前半の彼女による「いい度胸してるわ。おぼえてらっしゃい!」のMCで、それまで抱いていた不安は、一気に吹き飛んでいた。と同時に、きたーーーっ!!との、〈待ってました感〉が全身を貫いた。
その不安とは、このキノコホテルの支配人であり、作詞/作曲を担当。バンドのスポークスマンにして総指揮者。フィクサーにして策士でもある、ボーカル&電子オルガン担当のマリアンヌ東雲が復調しているか?否か?であった。というのも、この直近の6月頭の福岡でのライブ前、彼女は声帯結節の治療/療養を行い、残念ながらその福岡でのライヴは延期になってしまっていたからだ。あれから2週間。結論から言うと、まるでそんなことがあったなどとは信じられないほど、いつもと変わらない、いや、ややをもすると、これまで以上にパワフルなステージを彼女たちは展開してくれた。しかも、この日は、今後作品化されていくであろう新曲たちも数多く披露され、その楽曲の充実ぶりと、今後も我流スタイルを貫き通す、強い意志までも改めて確信させてくれるものとなった。
今回のツアーは、残念ながら延期となってしまった前述の福岡を除き、名古屋、札幌、東京、沖縄、大阪で行われたもの。大阪と札幌は、それぞれ2DAYSにて展開された。そして、我がラッカは、今回のこのツアーから、彼女たちのグッズのデザインや制作全般に携わり始めた。
今回、ラッカが制作したのは、赤いボディにアーティスト写真をデザインしたTシャツ(通称「限定ツアーTシャツ(集合写真)」)と、黒いボディに、マリアンヌの歌い姿がデザインされたTシャツ(通称「限定ツアーTシャツ(支配人)」)、そして、LUCKON GRAPHICS手による、マリアンヌの特徴的な髪形とキノコからイメージ、それをポップアートと融合させた、彼女を象徴するムチがロゴを描くガールズTシャツ(通称「オサレ女子限定Tシャツ」)、そして、その絵を全面に配したiPHONEカバー(通称「鉄屑(=iPhone4)専用ケース」)と、モノグラム風にデザインされたキャンパス地のレコードバッグを制作した。
この東京での会場はリキッドルーム。彼女たちのワンマンライヴとしては、最大規模のキャパシティだ。ステージ後方のスクリーンに、昭和の怪奇映画のような書体による今回のツアータイトル「水も滴る好いおんな」が、ゆっくりとこちらに迫ってくる映像が繰り返しリピートされている。シタ―ル等でアシッドに、サイケに、怪しくアレンジされた70’sロックの名曲の数々がBGMとしてフロアに流れる中、前述の不安や心配を同じように抱えた、この日集まった多くの胞子(キノコホテルのファン)たちと一緒に、復調したマリアンヌを思い浮かべながら、私も彼女たちの登場を待った。
突如SEが鳴り響き、嬌声にも似た無数の歓声がステージに向けて叫ばれ、会場全体が、そのSEに合わせクラップを始める。青紫色のライトで浮かび上がったステージに、ベースのエマニュエル、ギターのイザベル、ドラムのファビエンヌが順に現れ、定位置につきスタンバイを始める。なかなか肝心のボーカル&電気オルガンのマリアンヌが現れない。SEが終わり、メンバーがインストナンバーの新曲「エロス+独裁」をプレイし始め、怪しいサロンの開幕を告げる。演奏する3人のバックには、アシッドで艶めかしいVJが。妖艶なインストナンバーが高揚感を伴いプレイされ続ける中、どこからともなく涼しげなスキャットが。ナント、満員のフロアのお客さんの中を、そのスキャットの主であるマリアンヌが悠然と通り、ステージに向かっているではないか。彼女を取り囲みながらも、きちんとステージまでの導線を空けてあげているところがなんとも胞子ライクだ(笑)。艶かしいダンスを交えながら、ゆっくりとステージに上がるマリアンヌ。ステージ中央に設置された電子オルガンの自分の定位置に立ち、お客さんを一瞥。続けられているスキャットが、まるで我々をキノコホテルのエントランスに迎え入れるような、招き入れるような、誘いこむような、ハメルンの笛のように聞こえる。その後、電子オルガンをプレイング。浮遊感と艶めかしさを、バンドの放つグルーヴィなサウンドに加えていく。同曲が終わると同時に、マリアンヌが銅鑼(どら)を一鳴らし。続けてドラムのスティックによる4カウントからライヴは更に転がり始める。2曲目も新曲「球体関接」だ。時々襲うマリアンヌのスクリームがフロアの熱狂に油を注ぐ。ギターのイザベルはサーフ&ホッドロッドなソリッドなギターでフロアをシビれさせている。そして、まばゆいフラッシュストロボの中、「愛人共犯世界」へ突入。8ビートにドライヴ感が加わり、合わせてマリアンヌの歌声にも歪みが加わっていく。平歌部では、両手でマイクを包み込むように口元に持っていき歌い、そのポーズも相交わり、楽曲に甘美さと官能さがプラスされていく。 ノンストップで「白い部屋」に入るとマリアンヌもハンドマイクで歌い、歌によりエロティックさと少女性が交わっていく。ここではファビアンヌのコーラスも合わさり、2声のコーラスを楽しませてくれる。また、それらに負けじと、イザベルのファズの効いたギターソロが会場の熱気にガソリンを吹きかけ、アウトロではワウを織り交ぜ、そこはかとないサイケデリック感を会場に振り撒いていく。
エマニュエルのベースラインに乗せて、「よくきたわね」とマリアンヌが最初の挨拶。「マリアンヌ東雲、ここに復活よ。炊きたてのお米みたいに今日は、こんなにお客さんが来ていて嬉しわ。最後まで楽しんでいってちょうだい」と、上から目線のクールなおもてなしの挨拶が。でも、何だかそれが嬉しい(笑)。その後、ファズギターのイントロがそこに乗り、「もえつきたいの」にイン。マリアンヌもタンバリンを打ち刻みながら歌う。「♪どうしたらいいの あなたがいないと~気が狂いそうよ~」の官能的な歌フレーズに、フラフラと胞子たちが吸い寄せられていく。このツンデレ具合と、強がりの本音っぷりが彼女たちの歌の魅力だったりする。途中ではオルガンソロも交え、その後はイザベルの独壇場。ギターソロを弾きながらフロアまで降りると、満員の胞子の中、その身を沈めていく。そこに向け群がる胞子たち、にも我関せず、なおも悠然とソロを弾き続ける姿には恐れ入った。ステージに戻ると、見せ場をマリアンヌにスイッチ。彼女の甘いながらもあくまでも強気な歌声に、3人のメンバーのコーラスがスイートに歌に少女性を加えていく。ファビアンヌの力強い4カウントから更に加速度を上げるように、ブギーの効いたビートに突入する。続いては「真っ赤なゼリー」だ。イザベルとエマニュエルが曲に合わせてアクションを加えていく。同曲では、途中イザベルとマリアンヌが背反のスタイルになり、ギターとオルガン、それぞれのソロを応酬。会場を盛り上げる。
会場の雰囲気にいささか甘酸っぱい青春性が漂ってくる。続いては「砂漠」だ。スタンドからマイクを外し、ハンドマイクにてステージ前方までせり出し歌うマリアンヌ。決めフレーズ部では、フロアからも合わせて無数の拳が上がる。歌中の「熱い愛の水を」のフレーズに、会場からは、愛の水の代わりに熱い熱気が寄与される。
ファビエンヌの2ビートに乗せて「危険なうわさ」へ。カウパンクノリの牧歌性に艶めかしい歌謡感がミックスされた独特性が会場を魅了する。ここでもマリアンヌがオルガンソロを。飛び出したそれに会場が驚喜の声を上げる。それを継ぐようにイザベルもトレモロアームを交えたギターソロで応酬。そこにオンされるように3声のコーラスが、楽曲に甘さと柔らかさを含ませていく。太いベースラインとワウ交じりのギターソロから、新曲「そのとき何が起こったの」に入ると、マリアンヌもタンバリンを持ち歌い始める。サビに現れたスタックスビートでは、お客さんも一緒になりクラップ。ステージ/フロア合わせての一体感を見せる。
続くMCでは、ずっと気になっていたステージ下手(しもて)後ろに鎮座すましている銅鑼(ドラ)について、ようやく言及される。なんでも数日前に観たクレイジーケンバンドのステージにて銅鑼の起用を見つけ、自分のステージでも欲しくなり、急遽手配されたそう。レンタル料金は1万円なり。と、この日、どれぐらい鳴らせば、その1回辺りの単価が安くなるか?を算出。「というわけで叩かなきゃ損」という結論に到り、ジャーンと一鳴らし。しかし、この銅鑼。実寸を確認せずにレンタルしたらしく、実物は想定以上に大きなもので。当初ステージにてイメージしていた、マリアンヌのサイドに置き、事ある毎にジャーンと鳴らすプランも若干修正。今は先述の位置に落ち着き、そこまでヒョコヒョコとタイミングタイミングで銅鑼を鳴らしに行っている体だ。
そして、「今日は、お友達を連れてきたの」と、最近販売開始された自身のフィギュアの宣伝を続ける。そして、この日が実に、200回目のステージであったことを最後に告げる。もちろん、この告知が、このMCのブロックの中で最も盛り上がったのは、言うまでもない。
躍動感溢れるベースラインとワウの効いたファズギターから始まる「今夜はとってもいけない娘」で、再びライヴに戻る4人。変調する場面では、フロアのボルテージも一段グイッと上がる。そして、ノンストップで、マリアンヌの歌い出しから始まった新曲「憚るおんな」に入ると、ばっさばっさと斬り倒しながら進んでいく、その突き進み感が会場に快感を与える。間に三拍子を挟み、一度クールダウンさせてからまた熱度の高いところに持っていくところでは、一気に会場中がアガり、更に歓声を強めさせる。
続く「回転ベッドの向こう側」では、楽曲に合わせたサイケなVJも手伝い、スリリングな雰囲気が会場を支配する。ここでのギターソロはまさに圧巻。この日のハイライトの一つと言えるだろう。ドライヴ感とグル―ヴィーさたっぷりなリズム隊に乗り、イザベルのロングなギターソロが会場をこれでもかとグイグイ惹き込んで行く。このカタルシスとエクスタシーがたまらない。会場中が恍惚の表情で聴き浸る。合わせて、マリアンヌもこれまでの吐息から、スクリームへと変貌。会場のボルテージをグイグイ引き上げていく。ノンストップで「非常なる夜明け」にイン。彼女たちの代表曲とも言える同曲の登場に、歓声も一際上がる。
ここからはラストに向けて盛り上げ曲のオンパレード。特に赤いライトに覆われたステージに響くマリアンヌのスクリームから入った「キノコノトリコ」では、再びボーカルに歪みが加わり、会場に緊迫感と緊張感が漲ってくる。エマニュエルのスラップ交じりのベースループに、自由にかきむしられるイザベルのギター。それらに負けじと、支配人魂とプライドを見せるように、ステージを降り、フロアの最前列でオーディエンスたちと一緒になって歌うマリアンヌ。フロアは文字通り”キノコの虜”だ。ステージの3人は、ドラムを中心に向き合い、円陣を組むような陣型でプレイを続けている。
ズンズンとライヴは進んで行く。続くインスト曲「#84」では、イントロ部分で、マリアンヌも銅鑼を連打。バンドのメンバー紹介と、それぞれのソロ回しに会場が湧く。いやー、この各人のソロが、凄い弾き倒しと叩き倒し度であった。それこそブログレバンドかフュージョンバンドと見まごうばかりの超絶テクニックの応酬。これには観客もシビれっぱなし。お約束のマリアンヌがオルガンの上に立ち、ステージから会場を一瞥。その降臨/君臨ポーズに、胞子たちは完全に支配されていく。
熱狂の坩堝のまま、ライヴは本編ラストの「キノコホテル唱歌」に。オルガンの上に乗り、四つん這いになりながらも、グリッサンドを繰り返すマリアンヌ。それを目の当たりにし、会場中が熱狂のスクリームを上げる。騒乱狂乱を巻き起こし、そのカタルシスと開放感を残し、彼女たちは一旦ステージを降りる。
アンコールでは、当初の想定通り、銅鑼がマリアンヌの傍に置かれる。まずは3人がステージに現れ、残された支配人を呼び出す形に。「支配人コール」が会場全体から沸き起こる中、悠々とマリアンヌが登場。まずは銅鑼を連打する。ここで初の試みとして、会場から演って欲しい楽曲のリクエストが募られる。しかし、結果は誰からも声が上がらなかった「夕焼けがしっている」がプレイされる(笑)。うーん、いじわる~。深いリバーブの効いたギターカッティングが会場を夕焼け色に染めていき、間に交えられたマリアンヌのポエトリーリーディングに会場も耳をぐっと傾ける。
アンコール2曲目は、「マリアンヌの恍惚」。ファンタジックにして、艶めかしさとカオスとインプロビゼーションに会場も、なすすべもなく茫然とその描かれる景色を眺めるように聴き浸る。マリアンヌも持ち替えたバイオリンをヒステリックにエキセントリックに弾き倒す。グイグイと会場全体が同曲の世界観に惹き込まれていく。長いフィードバックのノイズから再び歌い出しのリフレインに戻るところでは、言いようのない安堵感が場内を包み、後半では、その凄さの度を更に上げるように、フィードバックノイズの中、イザベルのヒステリックなギターソロが荘厳に鳴り響く。アウトロの圧巻性が会場を凍りつかせ、ラストはマリアンヌが銅鑼を一鳴らし。忘却の彼方から人々の意識を現実へと引き戻す。
ダブルアンコールは、逆にショートシャープな曲が2連発。「静かな森で」「キノコホテル唱歌2」と、濃厚で密度の高い、中毒性溢れる楽曲が放たれる。
相変わらず、凄い好待遇な接客とサービスを余すところなく施してくれた4人。これを機にまたリピーターを増やしたであろうことは、帰り際の胞子たちの表情からもありありと感じられた。
Report : 池田スカオ和宏
【SET LIST】
1.エロス+独裁
2.球体関節
3.愛人共犯世界
4.白い部屋
5.もえつきたいの
6.真っ赤なゼリー
7.砂漠
8.危険なうわさ
9.そのとき何が起こったの
10.今夜はとってもいけない娘
11.憚るおんな
12.回転ベッドの向こう側
13.非常なる夜明け
14.愛と教育
15.キノコノトリコ
16.#84
17.キノコホテル唱歌
Encore
En-1 夕焼けがしっている
En-2 マリアンヌの恍惚
Double Encore
W-En-1. 静かな森で
W-En-2. キノコホテル唱歌2
【MEMBER】
歌と電気オルガン担当 マリアンヌ東雲
電気ギター担当 イザベル=ケメ鴨川
電気ベース担当 エマニュエル小湊
ドラム担当 ファビエンヌ猪苗代
【Profile】
コンセプトは、ポップで過激で中毒性の高い大衆音楽。人工的近未来感覚と昭和元禄的狂騒が絶妙に入り混じったような不思議なロックンロール・サウンドに、都会を生き抜く乙女心を歌った日本語詞が見事に乗っている。一度聴いたら忘れられない歌声、オルガンとファズ・ギター、グルーヴィーなリズムセクションが印象的な女性4人組バンド。
2007年6月、支配人のマリアンヌ東雲を中心に、4人の女性で創業。新宿、下北沢、高円寺のライブハウスを中心に月2-3回のペースで実演会活動(ライブ)を始める。
2008年2月、自主制作CDRシングル「真っ赤なゼリー」(現在入手不可)発売。一部で熱い話題となる。同年4月、多くの要望に応えてシングル「真っ赤なゼリー」をCD盤で再発売。12月、現在の編成で初の実演会。東京を中心に精力的な活動を再開する。
2009年1月、過去の実演会映像をまとめた初のDVD作品「キノコホテルの夜明け~初期実演会」を販売開始。3月、初の単独実演会「サロン・ド・キノコ~キノコホテルのすべて」新宿ジャムで開催。2ステージ計17曲を披露する。5月には、東京・静岡・名古屋・京都にて公演を行う。同年6月、CD&DVDの2枚組『サロン・ド・キノコ~実況録音盤』を会場限定で発売開始。
2010年2月、遂にデビュー・アルバム『マリアンヌの憂鬱』リリース。以降、2010年8月、ミニアルバム『マリアンヌの休日』、その年の各フェスティバルやイベントにも多く出演し、同年10月には、大阪、名古屋、東京の単独公演ツアーを行う。
2012年初夏には、「サロン・ド・キノコ~水も滴る好いおんな」とタイトルし、全国ツアーを敢行。
【NEW ITEM】
ALBUM
「マリアンヌの恍惚」
TKCA-73633
¥2,800(Tax in)
NOW ON SALE
M-1.キノコホテル唱歌Ⅱ
M-2.白い部屋icon_music.gif
M-3.非情なる夜明け icon_music.gif
M-4.危険なうわさ(淑女仕様)
M-5.風景
M-6.キノコノトリコ
M-7.人魚の恋
M-8.荒野へ
M-9.愛人共犯世界
M-10.マリアンヌの恍惚