Hello Sleepwalkers「Livemasters CHOICE × HighApps」
Hello Sleepwalkers
「Livemasters CHOICE × HighApps」
@代官山UNIT
2012.03.25(Sun)
w/ オワリカラ / The Flickers / 完全にノンフィクション
DJ: ツジユウヤ(ETERNAL ROCK CITY./HIGH SCHOOL DISCO)
「気概」は人のモチベーションを引き上げるには重要なファクターだ。飲み込まれないように懸命に逃げているかのような焦燥感。何かに駆り立てられているような性急感。掴み切れないものを追いかけているかのような切迫感。その渦中を必死に乗り越え、克服、征服にまで到りたいと動くことで、人はより向上する。
そしてバンドの場合は不思議と、プレイしているうちに一人の気概が他のメンバーにも憑依。まるでそれが自分のことのように乗り移り、不思議な一体感や全体感を持って、これまで乗り越えられづらかった壁も、気づけばクリアできている場合がある。人はそれを時に<バンドマジック>と呼んだり、<バンドならではの昇華>と呼んだりする。
しかし、その気概もあまりに過度だと、焦りだけが大きく先行し、ややもすると逆にそれに飲み込まれ、空回りしたりもする。それがギクシャクさやチグハグさ、どことなくのぎこちなさへと着地すると、目も当てられない有様を呈することもある。無いと困るし、在り過ぎても困る。気概の加減はなかなか難しい(笑)。
そして、この日のHello Sleepwalkersは、明らかにある種の気概を持ってステージに現れた。そして、その気概が曲を追うごとにメンバー間やフロアとの間に逞しいグル―ヴを生み、最後には何か、”やり終えた!””乗り越えた!”等の、しっかりとした達成感や到達感をステージも含む会場全体に残してくれた。
トリプルギターを擁した沖縄在住の5人組ロックバンド、Hello Sleepwalkersを観るのは、今回で2度目となる。前回は今年頭の渋谷WWW。初東京ワンマンライヴの際だ。デビュー・アルバム『マジルヨル:ネムラナイワクセイ』の発売直後ということもあり、超満員の会場での彼らは、時折りレーザー光線も飛び交う中、時に幻想的で、肉体的かつ躍動的なライヴを見せてくれた。
この日の出演ライヴは、「Livemasters CHOICE × HighApps」とタイトルされたイベント。新設のイベンタ―「Livemasters」と、これまで2回のショーケース的イベントを成功させてきた「HighApps」との共同企画だ。共演はオワリカラ、The Flickers、完全にノンフィクション。既に数日前に同メンツにて大阪で大成功を収めたと聞く。そして、同イベントの東京会場は、代官山UNIT。このイベントも含め、既に沖縄、大阪、名古屋と回ってきた血肉感や自信、思考したところを反映したところもあったのだろう。この日の彼らは以前観た時以上にダイナミズム感に溢れ、ロックバンド然とした姿を我々に見せてくれた。
我がラッカは、そんな彼らの記念すべき初Tシャツを制作させてもらった。全面プリントという手法を用いた、このTシャツは、肩口から襟ぐりにかけてのバンドのロゴがバーンと全面にプリントされたもの。インパクトも刺激度も抜群にして、一目で見た者に「おっ!?」と言わせるところは、彼らの音楽性やステージにも似ている。マーチャンダイザーの加藤も、このバンド初のTシャツに携われたことを喜んでおり、そのクオリティの高さにはかなり自信があるようだ。
この日のHello Sleepwalkersの出番は2番目。前に出演した「完全にノンフィクション」がステージを去り、ステージの間をつなぐDJが新進気鋭の日本のロックバンドたちのアンセムを途切れることなく回し、フロアを踊らせている。
そんな中、ふっと客電が落ち、彼らの登場を告げるSEが流れ出す。青白いライトで浮かび上がったステージに5人のメンバーが順に登場。ボーカル&ギターのシュンタロウ、女性ギター&ボーカルのナルミ、ギターのタスコが横一列に並び、ベースのマコトがちょい下がったフォーメーションを作る。デモンストレーションとばかりにタソコのギターからフィードバックノイズが会場にブワッと襲いかかり、その中からドラムのユウキによる力強い4つ打ちのビートが現れる。「Hello Sleepwalkersです。代官山踊ろうぜ!!」とシュンタロウが挨拶がてらフロアをアジり、ナルミがドラマティックなイントロフレーズを放つ。1曲目は「円盤飛来」(6月6日にニューシングルとして発売予定)だ。いきなり3本のギターによる圧巻な世界観が会場を支配する。Aメロはシュンタロウが英語詞で歌い、Bメロでは、シュンタロウ、ナルミによるボーカルのリレーションを見せる同曲。ここで早くも彼らのボーカルの表現力の幅を会場に明示していく。サビではユウキの放つ16ビートを活かしたダンサブルさが会場を強襲。日本語詞に移ったシュンタロウの歌に乗せて、早くも会場全体に高揚感が満ちる。間には、ユウキのロール気味のフィルからカウパンクのりのビートへ。そこからナルミへのボーカルのリレーションに移ると、その目まぐるしくもスムーズな楽曲展開に、会場全体も身体をあずけていく。後半に向かうに連れ、激しくなっていく同曲。合わせてフロントのメンバーたちのアクションにもアクティブさが加わり、アウトロでは、嵐のような轟音が会場をさらう。そのまま、タソコによるライトハンド奏法から「惑星Qのランドマーク」にイン。今時の同世代のバンドが、その辺りをサンプラ―や打ち込みで表わすところを、あえてギターにて表わすところに、このバンドのギター3本による有効性と稀有さを感じる。ダイナミックさと性急さが同居した同曲。変拍子を交えたドラミングの上、タソコのギターがシンセのウワモノ的な役割のように楽曲の上を自由に泳ぎ回り、スタインバーガーベースのマコトが楽曲のグル―ヴを引っ張っていく。ナルミ、タソコのギターがパラレルにユニゾンをかまし、ダイナミズムあふれる三拍子混じりのリズムが、なおのこと哀愁性と抗し得ない潮流を生み出していく。
Hello Sleepwalkersの音楽は緻密だ。3本のギターという同種の弦楽器を用い、それらのアンサンブルやプロセッション、各所のキメやモチーフにより、楽曲に彩りを加えていくそのスタイルは、逆に一つズレたり、崩れたりすると、見事さから一転。とてもチグハグなものになってしまう危うさを持っている。自由さもあるが、その分、危険も多い。にも関わらず、彼らは、そこにトゥーマッチさを感じさせないどころか、時に一丸となって、時にパラレルになって、各楽曲への特色づけとばかりに、このメゾッドを持ってくる。加え、印象深いのは、彼らの3本のギターはけっして音に厚みを持たせる為のものではないところ。どちらかと言えば、楽曲に幅や奥行きをもたらせる方法論としてのこの形態には、非常に興味深さと今後の可能性を期待させる。
話をライヴに戻そう。
ここでナルミがMCを始める。「久しぶりの東京でのライヴなので、ぜひ私たちのことを覚えて帰って下さい。最後まで全力で楽しみましょう」との言葉の後、これまでとは打って変わって、ウェットな歌唱でシュンタロウが歌い始める。続いては「ミッドナイトにグッドナイト」だ。これまでと違ったダイナミズム感あふれる8ビートナンバーが飛び出すと、会場に更なる生命力が加わる。途中途中で現れる、サビの上昇感あふれる4つ打ちのダンサブルなビートが心地よい。”清涼感と解放感のある曲だなと…”と聴き入るも一変。間奏ではシュンタロウが世界観たっぷりのギターソロを魅せ、その後現れるその歌声にナルミの凛としたコーラスが加わると、楽曲がよりふくよかなものになっていく。
ユウキがミッドテンポの8ビートで繋ぐ。シュンタロウが「最後までゆっくり楽しんでいって下さい」と一言。続いての「環状遊泳」に入ると、そのどっしりとしたリズム隊の上、3本のギターによるメランコリックなアルペジオが…と思ったら豹変。タソコのギターがその上を自由に泳ぎ回る。サビでのパーッと広がっていくその解放感がたまらない。空間性や楽曲の持つ世界観を大切に、そのパースぺクティヴさを引き出したり醸し出したりするのに、最も有効な機能に思える、彼らのこのフォーマット。一見、多展開に映りながらも、そこにはきちんとしたスムーズさを擁しているところは、実に彼らならではと言えるだろう。
ここでMC。ナルミが「残り2曲です。終わるのがとても寂しい。1曲1曲が違うから違った気持ちを込めてプレイしているけど、それが伝わってくれたら嬉しいな」と語り、続けて「それぞれの曲で違った楽しみ方をしているのが、このステージからも見えます。後半もそのパワーを合わせていきましょう!!」と加える。続いて、シュンタロウが「沖縄、大阪、名古屋と回ってきて、各所で共演バンドさんを観る度に、自分たちのプレイに打ちひしがれてきました。だけど、それでも全てお客さんに、全力に向き合うのが自分たちなので、あと2曲ぶちかまします!!」と力強くマニュフェスト。この時点でようやく、前述したこの日のステージ前半から漂っていた彼らの気概の原因が判明していく。
その言葉の後、間髪置かず情景的なイントロが流れ出す。「センチメンタル症候群」だ。テンポは変わらないのに、後半に向けてスピードアップしていくような錯覚に陥らせてくれる同曲。お客さんも交えた呼応が一体感を高めていく。サビの16ビートの躍動感が場内にダンサブルさを育ませ、その後のシュンタロウがファズを踏んでからの、カタストロフィーが会場の何もかもを巻き込んでいく。一瞬のストームが会場に吹き荒れ、合わせて会場全体が、歌われる”変わってしまった情熱”を探しまわる。そして、ラスト付近の「どこまで遠くに僕らはいけるだろう」の問いかけが、なおのこと信憑性を帯びて、彼らの今後へと思いを馳せさせる。
そして、ラストは激しく「月面歩行」が会場を襲う。サビではナルミがリードボーカルをとり、大サビのストレートで疾走感のある場面では、この日一番の騰勢を見せ、フロアもそれにライドオンしていく。その後はタソコのギターが哀愁性溢れるギターソロが雄弁に語り、マコトはボサノヴァタッチのフレーズを奏でる。ラストのサビではライトハンドも交えたタソコのプレイが会場を魅了。会場も一体となりラストスパートの並走を始める。そして、ステージを降りた彼らのあとには、ある種の達成感と到達感が会場に残された。同様のことをメンバー各人も味わったのだろう。ステージを去っていく彼らの顔は、各々序盤にあった気概を乗り越え、その場を征服できた者のみが浮かべられる笑みを湛えていた。
聞くところによると、その気概を乗り越えた後に、目に映る客席の光景は格別らしい。当初とは同じものかと見まごうぐらいの、朋友感に満ちた、キラキラしたもののように映ると言う。この日の彼らもステージ後半では、そんな光景を見れたのだろうか?
たぶんこれからも彼らは、何度となくステージ上やフロアに潜む魔物たちと対峙し、乗り越えて行くことになるだろう。そして、それらを乗り越えて行く度に眼前に広がるキラキラとした景色を幾度となく見ていくにちがいない。
我々ラッカは、今後も彼らのその多くの場面に立ち会って行きたいと心から思っている。これからもよろしく!!
Report : 池田スカオ和宏
【SET LIST】
1.円盤飛来
2.惑星Qのランドマーク
3.ミッドナイトにグッドナイト
4.環状遊泳
5.センチメンタル症候群
6.月面歩行
【MEMBER】
Vo.&G. シュンタロウ
G.& Vo. ナルミ
G. タソコ
B. マコト
Dr. ユウキ
【Profile】
沖縄を拠点に活動している3本のギターを含む5人組ロックバンド。2008年結成。2011年10月、タワーレコード限定でシングル「センチメンタル症候群」を発表。タワーレコード・インディーズチャート1位を獲得。2012年1月、A-Sketchよりデビューアルバム「マジルヨル:ネムラナイワクセイ」を発表。
【NEW ITEM】
Debut Album
『マジルヨル:ネムラナイワクセイ』
AZCS-1017
¥1,680(tax in)
[Aer-born/A-Sketch]
NOW ON SALE
1.ミッドナイトにグッドナイト
2.月面歩行
3.惑星Qのランドマーク
4.センチメンタル症候群(Album Ver.)
5.環状遊泳
6.五次元少女リア
7.寝てる
2012年6月6日リリース
NEW SINGLE
「円盤飛来」
AZCS-2019
¥777(tax in)
[Aer-born/A-Sketch]
2012.6.6 ON SALE
1.円盤飛来
2.21
【ARTIST HOMEPAGE】
http://www.hellosleepwalkers.com