『スペースシャワー列伝 JAPAN TOUR 2012 FINAL』
『スペースシャワー列伝 JAPAN TOUR 2012 FINAL』
w / The SALOVERS、OverTheDogs、クリープハイプ、アルカラ
2012.3.10(Sat)
@AKASAKA BLITZ
存在証明。今回の『スペースシャワー列伝 JAPAN TOUR 2012 FINAL』の裏テーマである。
存在、もしくは自身のアイデンティティを示す方法は千差万別だ。ある者は声高に、自分が成してきたものでアピールし、あえて語らず佇まいそのものだけで表す者もいるだろう。何かの方法論から導き出し、提示する者もいれば、何か道具を用い、その行使の過程で感じ取らせる者もいるかもしれない。そんな誰もが必ず持っている、そのアイデンティティを、この日出演した、The SALOVERS、OverTheDogs、クリープハイプ、アルカラの4バンドは、各々の楽器や歌を用い、独自の表現スタイルやメゾッドにて、しっかりと観る者に証明してくれた。
今年も『スペースシャワー列伝 JAPAN TOUR』の季節がやってきた。今回のツアーも北は北海道札幌から、南は九州福岡まで全国8箇所にて開催。スペースシャワーが今年注目しているアーティストをパッケージ形式にてライヴツアーを行ってきた。過去多くの出演アーティストが、この後、第一線で活躍しているのも頼もしい同ツアー。有望性や将来性、イベントのブランド性も含め、今年も全箇所ソールドアウト。各会場満員の動員を記録した。
我々ラッカもこのツアー用のTシャツを作り出して早5回目。毎度のことながら、今年もバッチリのものが出来上がった。例年に漏れず、今年も我々が会場に入った時には、2種のTシャツはそれぞれ完売。実際に並んでいるところを見ることが出来なかった。見れなかったのは残念だが、完売は非常に嬉しい。そんなところか(笑)。かく言う、このツアーのライヴレポートも今年も4回目。今回も含め毎度非常にシンパシーを持って書かせてもらっている。
各会場ごとに出演順を変えているのもこの列伝ツアーの特徴。この日の一発目は、The SALOVERSだ。ポリリズム感たっぷりのSEに乗りメンバーが登場。「スペースシャワー列伝 JAPAN TOURにようこそ」とボーカル&ギターの古舘の一言からライブはスタートした。まばゆいストロボフラッシュと赤いライトの中、1曲目の「狭斜の街」が鳴らされると、会場は曲のシチュエーションでもある真夏の夜へ。展開の多い曲ながら、藤井のギターは、楽曲を泳ぎ回り、オブリガードを入れまくる。ノンストップで古舘の掻きむしるようなギターイントロに小林のベースが絡み出すと、楽曲に合わせて会場も走り出す。続いての「サリンジャー」では、失ったものと落としたものの大切さや貴重さに改めて気づかされる。気分はまさに「ライ麦畑でつかまえそこねて」だ(笑)。「仏教ソング」では、鈍くディストーションのかかった藤井のギターとドライヴ感のある小林のベース、古舘の歌が会場にモラトリアムを問う。しがみつきたいのに、諦めなくちゃいけない諦念の入り交じりと焦燥感とが交差し、会場もスパークする。
ここでMC。古舘が、「列伝ツアーで色々なところを回ったんで、途中自分が今、どの街に居るのか?を錯覚した時があった」、そして、今回の列伝ツアーのテーマ「存在証明」について言及するも、結局、その場では答えは出ず。次の最新シングル「ディタラトゥエンティ」に入る。ダンサブルさとはまた違った4つ打ちと、 途中豹変する2ビートが、時折飛び出すショッキングな歌詞と共に会場に問う。とは言え、問うのは当然、歌っている自分自身にも。”このままでいいのか?””このままでいたいけど、もうすぐ卒業しなくちゃいけない”。そんな葛藤が聴く者自身の今の生活を省みさせる。続いての「フランシスコサンセット」は、ミディアムな8ビートのナンバー。3年前と変わったところ、変わらないところが情景と共に甘酸っぱく、どこか痛々しく広がっていく。次曲のイントロが鳴らされるとフロア前方の密度もグっと上がる。続いての「SAD GIRL」では、藤井、小林のアクションも激しくなっていく。覚えていたいもの、覚えてなくちゃいけないものについて、会場全体も各々それに対して思いを馳せる。
ここでMC。古舘が、これまでコンプレックスに思っていたおでこのほくろを、このツアー中に、それが良いことだと聞いたので、今後は推していくと笑いながら宣言。そして、「今やれることをびしっとやるのがSALOVERSの存在証明」であることを力強く告げる。
ラストは藤川の大きく響くカウントから入った「愛しておくれ」。じわじわと広がっていくようなミディアムでダイナミックなサウンドの上、言いたくても言い出せない心情や言葉が、歌となって会場中に伝えられる。曲中何度も放たれた、主題とも言える「愛しておくれ」のフレーズが会場の一人一人に向けて、まるでリフレインのように響いていた。
続いて登場したのは、OverTheDogs。我がラッカとも非常につき合いの深いバンドだ。メンバーのスタンバイが終わると、遅れてボーカルの恒吉がスタスタと現れる。マイクを握ると『スペースシャワー列伝 JAPAN TOUR 2012 FINAL』にようこそ。楽しむゾ~」と発し、「イッツ・ア・スモールワールド」をアカペラにて歌い始める。聴き入る会場。その後、ダイナミズム溢れるバンドサウンドがそこに加わると、一気に楽曲が広がり出す。続いては急変。「マルデメロス」のドライブ感のあるサウンドが会場を強襲する。 ベースの佐藤のダウンピッキングが疾走感を生み、会場を走らせる。”早く行かなきゃ、このままじゃ終わっちゃうよ”との焦燥感を煽りながらも会場中には妙な一体感が生まれ始める。キーボードの星もウォームなオルガンの音色で楽曲に演出を加えていく。
ここで軽くMC。その語りのラストに、恒吉が誇らしげに両腕を広げたのだが、それが、”何でも受け止めてやるゾ!!”といったジェスチャーのように映る。
3曲目は「みぎてひだりて」だった。サビでの躍動感溢れる箇所では会場にタテノリを起こし、ラストの「繋いでは離し、離しては繋いて 二人はいれる」のフレーズが彼らと会場との関係値のように響く。
ここで恒吉から、7月6日に同じくこの赤坂ブリッツにて主催ライヴを行うことが告げられ、続けて「あるかはわからないけど、あったら大事にしたい」の言葉の後、「愛」に入る。勢いのある疾走8ビートの上、会場の一人一人が愛というものの存在とその大切さ、そして大事にしていきたい気持ちを楽曲に乗せる。
星のラグタイム的なピアノから「メクルの本」に入ると、これまでになかったポップさが会場に広がる。そして豹変。ノイジーなシンセと、ギターの樋口によるスリリングなフレーズ、打ち付けるようなサウンドの中、「神様になれますように」が始まる。作品とは違い、よりスリリングさが増した感のある同曲。ここでは、樋口のギターソロも炸裂する。
優しいピアノに乗せ、恒吉が「メンバーが歳をとり、おむつになっても、ライヴは行っていきたい。みなさんもおむつをしても観に来てほしい。これからもふわふわと適当にして生きていたいと思います」と、あくまでも自然体でいることが、彼らの存在証明であるかのような言葉が語られ、ラストの「本当の未来は」に入る。一際優しく感じられた同曲。会場中の一人一人が、これからの遠い未来や、その時の自分、そして、”その時愛しい人はどうしているんだろう?”と思いを馳せる。
3番手はクリープハイプ。ボーカル&ギターの尾崎からの「あー、むっちゃ緊張するわ(笑)。次世代ギターロックの星、グリープハイプ始めます」の言葉を呼び声に、1曲目の4つ打ちナンバー「ウワノソラ」に入る。いきなりミラーボールが回り出し、早くも場内は高揚。裸足でギターを弾きながら歌う尾崎の鋭いハイトーンボーカルが、大好きと大嫌いの間、それでいてそこがかなり重要な部分なのだといわんばかりに聴く者に伝えられる。ダンサブルでいて、暴発気味のサウンドに会場は1曲目にして早くも一体感が育まれる。続いて、70年代のブルースロック的なフレーズが会場に飛び込むと「身も蓋もない水槽」にイン。尾崎が会場をアジる。間にはベースソロも交わり、そのベースの長谷川が動きまくりながらクルーヴィーにプレイ。楽曲をグイグイ引っ張っていく。
「この辺りでキラーチューンが来たら最高なんだけど」とは尾崎。その顔は二ヤリとしている。その後、入ったベースイントロに会場が一際湧く。3曲目は「HE IS MINE」だ。グイグイと引っぱるベースに豪快な小川のギターが会場の熱気に油を注ぐ。そして、中間部には待ってました。「今度会ったら何をしようか 今度会ったらキスをしようか 今度会ったら何をしようか今度会ったら…」のフレーズが。もちろんその後は、会場の男女問わず「セックスしよう!!」の大合唱が。いやー、気持ちよかった(笑)。続いて、ミディアムでどっしり、それでいてポップなナンバーの登場に会場が湧く。次の「グレーマンのせいにする」では、1番を長谷川が歌い、2番を尾崎が歌うというリレーションを楽しませてくれる。
「なんか恥ずかしいよ。まるで売れてるみたいじゃないか」と尾崎。続いて「左耳」、そして4月18日に発表される待望のメジャー1stアルバム『死ぬまで一生愛されてると思ってたよ』の1曲目を飾る「愛の標識」がここで披露される。性急的でストレート。早口で情報量の多い尾崎の歌が一際饒舌に響く。
「他にいいことないなんて思えてくるけど、好きなことはやれてしまうんだなぁ。今回の列伝ツアーで大事なものを、より大事にしたいと思った」と、その大事なことこそが彼らの存在証明であるかのような言葉が尾崎から告げられる。そして、「今日があなたにとって特別な日になりますように」と続けられ、ラストは「イノチミジカシコイセヨオトメ」がプレイされた。
いよいよ、この日のトリを務めたアルカラの登場だ。今日はどんなMCの飛び道具が襲ってくるのだろう?会場中が期待にぐいっと身を乗り出し、逆にどんな言葉が飛んで来ても受け止めるぜとの姿勢でぐっと身構える。
ライヴはスタート。ボーカル&ギターの稲村による、お約束の「どぶね~ずみ、みたいに~」と、あの有名バースが歌い出される。当然首からタンバリンをかぶった彼らのライヴではお馴染みのあの独特のスタイルにて。1フレーズ歌い終わり、そのラストの韻の部分で、「うつくしさがア~ル~カ~ラ~のライヴが始まるよ~」から「Aカップ巨乳」に突入。ギターの田原、ベースの下上がアグレッシヴに動き回り、弾きまくる。途中変拍子をかましながらも、サビの部分では、持ち前のドライヴ感で会場を一丸にしていく。そして、豪気な疋田のドラムがハードロック然とダイナミックなビートを叩き出していた「癇癪玉のお宮ちゃん」、ノンストップで続く「チクショー」に突入すると、更なる性急性が会場に満ち、場内の温度をグっと引き上げる。サビの切なさを帯びたメロディと歌、 勢いと郷愁感とで会場を一気にまとめあげる。
得意の2本のギターによるユニゾンリードから入った「ミックスジュース」は、”この歌通りのジュースだったら、一体どんな味がするんだろう?”と観る者を訝しがらせるナンバー(笑)。「みんなのうた」然とした要素を内包しつつも、曲展開の激しさに会場中が引き回される。しかし、みんな嬉しそうな表情で呼応。後半は稲村もハードロッカーばりの伸びやかなハイトーンボーカルを会場中に響かせる。
ここで稲村から重大発表が。これまで彼らの代名詞の一つでもあった、首から下げていたタンバリンをこの日を持って卒業するという…。
続いて「キャッチーを科学する」、ノンストップで「デカダントタウン」に入ると、下上のベースもダウンピッキングで楽曲に疾走感を加える。サビのストレートさが活きる同曲。会場に一丸性や一体感を生むと同時に、会場をどんどんステージへと惹き込んでいく。ラストは「ミ・ラ・イ・ノ・オ・ト」。シャワーのような轟音ギターと、より増した疾走感が何もかもなぎ倒して進んで行く。最後には、稲村がまるで別れでも告げるかように丁寧にステージにタンバリンを置き、彼らは舞台から去った。
ここからはアンコール。アルカラのメンバーが再び現れるも、稲村の首には既に違った新しいタンバリンが。それについて、「前のタンバリンは今日でさよなら。これからはこのタンバリン。今度のは光るんだ」と、それを実践してみせてくれる。そして、出演者全員が再びステージに呼び込まれ、全員で「交差点」を歌い始める。とその前に、稲村の思いつきでお客さんを交えての「スペースシャワー体操」なるフリが。その後、OverTheDogsの恒吉にもギターを持たせ、お客さんをステージに次々と上げていく中、今度こそ(笑)、出演者全員で「交差点」を歌う。むちゃくちゃながら非常に爽快感 と大団円感のあるラストだ。その流れや光景に会場も大満足。今年も列伝ツアーは無事に幕を閉じた。
各バンド、起用する楽器にそれほどの差異がないにも関わらず、それぞれが自分たちにしか出せない音や歌、楽曲やMCで、この日来ていた聴衆を魅了。来た者の頭から離れない強烈さを持って、各々の空気感や空間性、世界観にて存在証明を明示してくれた、この日。と同時に、存在証明とは、その人が発する佇まいや姿勢から滲み出てくるものなのだと改めて気づかされもした。
来年以降も列伝ツアーは続いていく。どんなアーティストが現れようとも、その信憑性を信じ、我がラッカも今後もしっかり応援していきたいと思う。それが、我々の存在証明、かな?
Report : 池田スカオ和宏
写真は、ラッカと非常にゆかりのある、OverTheDogsのニューグッズの「蒔絵ガチャガチャ」。26種の蒔絵に新曲がダウンロードできるQRコード入り。この日もずーっと列が途切れませんでした。
■SPACE SHOWER TV では、このイベントの模様を90分の特別番組にてオンエアを予定しております。
『スペースシャワー列伝 JAPAN TOUR 2012』
【出演アーティスト】
アルカラ、OverTheDogs、クリープハイプ、The SALOVERS
放送:4/21(土)25:00~、4/30(月)23:30~、5月予定
http://www.spaceshowertv.com/retsuden/
The SALOVERS
【SET LIST】
1.狭斜の街
2.サリンジャー
3.仏教ソング
4.ディタラトゥエンティ
5.フランシスコサンセット
6.SAD GIRL
7.愛しておくれ
【MEMBER】
Vo.& G. 古舘佑太郎
G. 藤井清也
B. 小林亮平
Dr. 藤川雄太
【ARTIST HOMEPAGE】
OverTheDogs
【SET LIST】
1.イッツ・ア・スモールワールド
2.マルデメロス
3.みぎてひだりて
4.愛
5.メクルの本
6.神様になれますように
7.本当の未来は
【MEMBER】
Vo.&G. 恒吉 豊
G.&Cho. 樋口 三四郎
B.&Cho. 佐藤 ダイキ
Key.&Cho. 星 英二郎
【ARTIST HOMEPAGE】
http://overthedogs.com/index.html
クリープハイプ
【SET LIST】
1.ウワノソラ
2.身も蓋もない水槽
3.HE IS MINE
4.グレーマンのせいにする
5.左耳
6.愛の標識
7.イノチミジカシコイセヨオトメ
【MEMBER】
Vo.&G. 尾崎世界観
G. 小川 幸慈
B. 長谷川カオナシ
Dr. 小泉 拓
【ARTIST HOMEPAGE】
http://www.creephyp.com/top.html
アルカラ
【SET LIST】
1.Aカップ巨乳
2.癇癪玉のお宮ちゃん
3.チクショー
4.ミックスジュース
5.キャッチーを科学する
6.デカダントタウン
7.ミ・ラ・イ・ノ・オ・ト
セッション
1.交差点
【MEMBER】
Vo.&G. 稲村太佑
G. 田原和憲
B. 下上貴弘
Dr. 疋田武史