毛皮のマリーズ「TOUR2011 “Who Killed Marie ?”」
毛皮のマリーズ
「TOUR2011 “Who Killed Marie ?”」
@日本武道館
2011.12.5(Mon)
「今までは何かしらライヴに縛りをもたらしてきたんですけど、今回は初めてのオールタイムベストになる予定です。しかもクライマックスの連発(笑)。例えば、アルバムで言う『Gloomy』のような”ヘイト”や”死ね”ばっかりの呪いや恨みの曲の後に、アルバム『毛皮のマリーズ』みたいな、愛をテーマにした曲を続けて演っちゃう。だけど、それが出来るのって僕らしかいないし、これが僕たちなんだと思うんです。今作で哀しみを手にしたんで、喜怒哀楽憎恨(笑)全部ある今、その全部を出してみようかなと。お客さん降り回っされっぱなしで訳が分からん、そんなライヴをあの場所でしてみたいんです。きっとその時に、ようやく”ああ、毛皮のマリーズってこんなバンドやったんや…”って、僕自身も含めて、みんなが気づくんじゃないかな (笑)」
これは今年の8月上旬。彼らのラストアルバムとなった『THE END』の取材の際(厳密にはその取材の時点では、まだタイトルは『毛皮のマリーズのハローロンドン(仮)』)に、この武道館ライヴへの意気込みをボーカルの志磨に尋ねた際の答えだった。もちろんその時点では、まさか解散の準備が進行しているとは、つゆ知らず。”あ、そんなライヴになるのだな”と、訝しがることなく額面通り受け止めていた。そして、この日の武道館は、まさにその言葉通りの光景が展開された。
これまでの作品から比較的満遍なく、色々なタイプの曲を、ある程度の流れやブロックを保ちながらも、あくまでもマリーズらしくプレイされた、この日。会場から出る際には多くの人が、ここでようやく彼らの全貌を感じることが出来たのではないだろうか。
「TOUR2011 “Who Killed Marie ?”」のファイナルとなったこの日の会場は日本武道館。もちろん彼らの単独ライヴとしては最も大きなキャパシティとステージであった。有終の美を飾るには最高の舞台となったこの会場に、多くの人がそれぞれが手向けの言葉を胸に、彼らの終焉を観届けんと集まった。
今はまだ無人のステージを見ると、これまでワンマンの際には用意されていたキーボードや他の楽器類は見受けられず。そこに、”最初から最後までこの4人だけで演り切ってやる!!”そんな意気込みや気概さえも感じる。
今回、我がラッカは、この「TOUR2011 “Who Killed Marie ?”」に際し、「ツアーT」「WHO KILLD MariE-T」「ト―トバック」、そして、この武道館用に特別に、「フルーツT」のベージュ色、「THE END-T」を制作した。
今回の物販制作に際して、マーチャンダイザーのハルヒサカトーは、ボーカルの志磨と色々と話しをし、「WHO KILLD MariE-T」では。古着っぽい要望に応えるべく、画像加工を施し、特色分解でプリント。ベージュの「フルーツT」に関しては、タンブラー加工。トートバッグは印刷が広面だったので、あえて手刷りにした。また、「THE END-T」に関しては、ツアーの最中にデザインを志磨が上げ、それを商品化した、まさに最後のアイテムとなっただけに一際感慨深いものだったという。
まるで彼らの解散を惜しむように、武道館の客席が徐々に埋まっていく。
会場がいきなり暗転すると、いつも通りオープニングSEとして使用している、エディット・ピアフの「愛の讃歌」が大音量で鳴り響く。まっ暗な中、ステージが徐々に明るくなっていき、まずはドラムの富士山が、いつもの上半身裸のスタイルで、客席に片手を挙げ登場。会場に向かってお辞儀をする。続いて、ベースの栗本、ギターの越川が現れ、各々のポジジョンにてスタンバイ。いつもはもっと早い段階でフェイドアウトする「愛の讃歌」がクライマックスを迎え、初めて迎えたそのエンディングと同時に、デモンストレーションを交え、「REBEL SONG」が始まる。越川、栗本のダウンピッキングが疾走感を与え、富士山のフロアタムを活かしたドラミングがダイナミズムを生んでいく。同曲の歌い出しにてボーカルの志磨が登場。歌い始めると会場も一際歓声を上げ、彼らのロックンロールショーが転がり始める。ジョーイ・ラモーン・スタイルで歌う志磨。「やっちま~え~」のアジテーションの後、「バンバンババンバンバン バンバンババンバン」のサビのフレーズに合わせ、志磨が力強くコブシを突き上げる。当然会場ものっけからの大呼応。早くも客電が大全開となり、まばゆい会場に、いきなりドライヴィンなロックンロールが炸裂する。
そして、「ぶど~か~ん!!」と志磨がシャウト。続いての「ボニーとクライドは今夜も夢中」に突入する。前曲のドライヴ感に、ソリッドさとゴキゲン感、そして刹那感が加わる。ホント、歌詞にある「どうか神様お願いこのまま朝まで」のフレーズを、多くの人が心に願う。富士山のフロアタムが地響きを起こし、「人間不信」に突入すると、栗本のベースが会場にサバトを作り出し、場内をいきなりどん底でヘイトな世界へと突き落とす。もだえるように踊り歌う志磨。その上を越川のギターが艶めかしく動き回る。赤紫のライトとフラッシュが曲とベストマッチを見せ、前曲とのギャップやコントラストに、前述の志磨の言葉を思い出す。一瞬のブレイクの後、志磨が「もし私が死んだら華の一つでも供えて下さい」と一言、そこから同曲は豪気なアウトロへと突入していく。
「こんばんは武道館。僕たち、毛皮のマリーズと言います。今日は最後まで楽しんでね」と、まるで初見の人に向かっているかのようなMCを添え、続いてエゲつないナンバーへと怒涛にインする。この「愛する or Die」では、富士山の放つズンドコビートがたまらない。そして、「ガンマン、生きて帰れ」の越川によるブギーなフレーズが会場に炸裂すると、会場全体がいきなりアメリカ西部へと連れ出される。同曲のギターソロでは越川もステージの逆サイドまでせり出し、豪気にプレイ。歓声が上がる。ソリッドでブギーの効いたサウンドに会場もクラップで応酬。志磨と越川が1本のコーラスマイクで肩を組み、歌う。うーん、この美しい光景もこれが見収めか…。
「次は、僕らの新しいレコードの中から「ラストワルツ」という曲です」と志磨。ベルベット・アンダーグラウンドの「サンデーモーニング」的なチャームを使ったイントロも印象的なロッカバラードの同曲では、思い出すようなトボトボとした歌い出しから、ゆっくりと広がり、楽曲の昇華を体感する。越川のギターソロも会場に炸裂。救われない曲なのに、どこか救われた気分になるのは何故だろう。後ろからの神々しい光の向こうに志磨。続いては、個人的には非常に大好きな「それすらできない」だ。何度この歌の「もうこれ以上悪くなることは何もない」を自分に言い聞かせたことか(笑)。越川の哀愁を帯びたギターソロも胸に染み、歌を通し「これが僕たちのやり方だろう?」と問われる。
「武道館は似合うかい?」と志磨。そのまま用意された椅子とアコギを手に「ダンデライオン」を始める。越川もアルペジオ、富士山もブラシを使ったドラミングで楽曲に演出を加える。また、栗本も指弾きにてウッドベース的な音色でプレイ。歌中の「また君を見つけ、また君を愛し、また愛してみせるよ」とは、まるでこの日の客席の1人1人に歌われているかの如く。会場全体がうっとりとした気分になる。
ここからは中盤戦。彼らの中でも比較的ポップで弾んだナンバーが連発される。まずは、会場にウキウキさを生み、栗本のキュートなコーラスやポックスステップも見どころであった「BABYDOLL」。志磨もステージの端まで歩き、歌う。「忘れない愛してるワ」のフレーズに場内も深く頷く。そして、春を呼び込むかのように、栗本がボーカルを取るポップスナンバー「すてきなモリー」へ。キャンディポップながら富士山突進ピートがいつもよりも潔い勢いを生んでいく。「ランランモリ―」の部分では会場も大合唱。これまでになかった一体感を会場に呼び込む。富士山が重いフロアタムでつなぎ、そこからスタックスビートへ。そこに志磨が「僕の古くからの友人を紹介します。こいつの名前は越川和磨といいます」の言葉の後、その越川のギターが乗り、「コミック・ジェネレイション」がごきげんに放たれる。「愛も平和も欲しくないよ だって君にしか興味ないもん」のキャッチーなフレーズが会場に炸裂し、大合唱が起こる。「君を愛してるよ」のフレーズから、あの幻想的なイントロに乗せ、志磨が「Mary Lou」を歌い始める。ロマンティックさが会場に広がり、スイートでリトルロマンスな世界が場内を包んでいく。気高く、ピュアで可憐な物語を場内に広げていく。
ここで、はたと気がついた。今回のセットリストのリリックの中には、愛が出てくる曲が多いことに。そして、それは、これ以降の多くの曲に散見された。
「久々の曲を演ります」と志磨。続いては、”あえてこんな曲も交えるのも実に彼ららしい”と思わせた「The Heart Of Dixie」。そして、アコギの弾き語りから入った「JUBILEE」では、深い悲しみにも似た感情が会場を包んでいく。
次の「HEART OF GOLD」が始まると更に会場の嬌声大きくなる。「もう雨はやむだろう そして、朝日がのぼるさ」のフレーズが、この日はどんなに力強く響いたことか。ノンストップで会場から起こった手拍子に乗る形で、ギター、ベースのカッティングから「ジャーニー」へ。「さらば青春。こんにちわ僕らの未来」と叫び、見えない何かに立ち向かうかのように激しいステージングを見せる志磨。「止まると俺死ぬから」のフレーズが繰り返され、ふとこの曲で、志磨めがけてお客さんが群がっていっていた頃のことを思い出す。”一時期は、この曲がある種のハイライトだったっけ…”と。そして、「まるで人生のよう音楽 まるで音楽のような人生」と、彼らの所信的なフレーズも高らかに響き渡った「ビューティフル」では、途中、「まだ、可能性はあるか?」と志磨が繰り返し会場に尋ねる。ステージの電飾もロックスター然と点滅し、歌われる「今こそ私はこう言える 最後に正義は必ず勝つ」のフレーズも、いつとも以上、いや、これまでで最も美しく真理のように響く。ここで本編は終わり。志磨もマイクスタンドを何度もステージに叩きつけ、舞台を後にする。
アンコールは、再び1人1人順にステージに登場。志磨は手にアコギを持っている。越川の放つフィードバックノイズの中、フロントの3人とドラムの富士山が向かい合い、「YOUNG LOOSER」のプレイが始まる。”本当に自身がル―ザ―だったのか?”を振り返り、それを会場に問うように歌が響く。途中では、志磨と越川が向かい合いギターソロを弾くシーンも。気高く、誇り高く、毛皮のマリーズというバンドが存在していたことを思い返させるように、ギターソロが雄弁に広い会場に響き渡る。
曲が終わり、しばしの沈黙。その間中、会場からメンバー各人へ、無数の温かい声援や、「ヤメないでくれ」との懇願的な声がかけられる。そして、ふと昔を思い出した。今からもう4年ほど前。私が初めてマリーズのワンマンを観た時の光景だ。場所は東新宿のライヴハウス。100人も入れば満杯のライヴハウスにて行われたそのライヴの間、客席からは「殺すぞ!はよ出てこい」「おら、はよ演れや。ボケ!!」「たりいんじゃ~!!」「おら、まだまだ足りねえゾ」等々ステージに向けて、煽り的で刺すような、ヤジにも近い声援が寄せられた。いや、言葉尻殺気は帯びていたが、明らかにそこには温かいフレンドリーさや信頼感があった。そんな声援の移り変わりに感慨深く浸っている中、ラストアルバムの最終に収められていた「THE END」が始まる。この日、この時のために作られたかのような同曲が放たれると、場内からは、”いよいよ”との終焉を予感する感嘆が溢れる。かつてフランク・シナトラのスタンダード曲をシド・ヴィシャスが歌っていたかのように歌う志磨。最後にド派手にマリーズ版「My Way」が大団円を場内に呼び込む。うん、やはりラストは、何もかも振り払うかのような疾走8ビートでなくちゃ。「THE END!!」のシャウトと共に、富士山はスティックを、志磨もマイクを放り投げ、自らを葬り去った。
まとまった最後の挨拶は一切ナシ。実にあっさりと痛快に彼らはステージを去った。そこには当初予想していた悲壮感は全く無く、むしろ<してやられた>的な気持ちになった。<してやられた…>。これこそが僕がマリーズというバンドをトータルで見た時の全体の印象だったのかもしれない。ダルでル―ズなロックンロール、グラムやグリッター、パンキッシュさ、南部やブルースフィールのある骨太なロック、作品性の非常に高いロック、そして、神々しくも気高い、崇高なロック、ポップス性の高いロックと、これまで、作品毎作品毎で表情や表現を変化させ、その毎に、私に<してやられた>と思わせてくれた彼ら。この日から彼らはまた新たな一歩を歩むのだろう。そして、また違った形で我々の前に、新しい自分たちの音を届けんと現れてくれることだろう。最後になるが、我がLUCK’Aが彼らと一緒に歩いてこれた、この4年の充実していた日々に感謝すると同時に、今後の彼らも精一杯応援していきたい。
ありがとう毛皮のマリーズ! じゃあ、また!!
Report : 池田スカオ和宏
【SET LIST】
1. REBEL SONG
2. ボニーとクライドは今夜も夢中
3. 人間不信
4. 愛する or Die
5. ガンマン、生きて帰れ
6. ラストワルツ
7. それすらできない
8. ダンデライオン
9. BABYDOLL
10. すてきなモリー
11. コミック・ジェネレイション
12. Mary Lou
13. The Heart Of Dixie
14. JUBILEE
15. HEART OF GOLD
16. ジャーニー
17. ビューティフル
Encore
En-1. YOUNG LOOSER
En-2. THE END
【MEMBER】
Vo. 志磨 遼平
G. 越川 和磨
B. 栗本 ヒロコ
Dr. 富士山 富士夫
【PROFILE】
2006年9月、1stアルバム『戦争をしよう』リリース。
2007年12月、2ndアルバム『マイ・ネーム・イズ・ロマンス』リリース。
2008 年5月、ミニアルバム『Faust C.D.』リリース。夏から秋には「AOMORI ROCK FES 08」「ロッケンローサミット(渋谷AX)」「MINAMI WHEEL 08」などにも出演し、観客の度肝を抜く。2008年12月、3曲入り両A面シングル「ビューティフル /愛する or die」リリース。
2009年4月、3rd ALBUM『Gloomy』リリース。オリコン アルバム総合チャートでは初登場51位を記録。
2010年4月、メジャーデビューアルバム『毛皮のマリーズ』リリース。それを引っ提げた『Restoration Tour 2010』を5月の下北沢SHELTERを皮切りに敢行。最終日の恵比寿リキッドルームでのワンマンのまで、全国大成功を収める。同年夏には、各地夏フェスに出演。10月には、メジャー1stシングル「Mary Lou」を発表。初回限定の絵本つきコロちゃんパック仕様と共に話題となる。11月からは「コミカル・ミステリー・ツアー」を敢行。最終日の渋谷AXのワンマンライヴをソールドアウトの大成功に収める。
2011年1月19日には2ndアルバム『ティン・パン・アレイ』を発表。同年春には全国ツアー「MARIES MANIA」を敢行。ファイナルとして4月23日には、初の単独ホール公演を行う。
2011年9月、3rdアルバム『THE END』発売。同日に解散宣言がなされ、バンドの活動が年内いっぱいだあることが告げられる。同年10月よりラストツアー「Who Killed Marie?」を敢行。ファイナルの12/5には最初で最後の武道館公演が成される。同年12月31日解散。
【NEW ITEM】
3rd ALBUM
『THE END』
COCP-36892
¥2,800(tax in)
【コロムビアミュージックエンタテインメント】
NOW ON SALE
1. The End Of The World
2. HEART OF GOLD
3. ラストワルツ
4. 夢のあと
5. 上海姑娘
6. ラプソディ・イン・ザ・ムード
7. The Ballad Of Saturday Night
8. 毛皮のマリーズのハロー!ロンドン
9. となりにいてね
10. ダンデライオン
11. JUBILEE
12. THE END
【LIVE SCHEDULE】
http://www.kegawanomaries.jp/hell/gig/index.html