MO’SOME TONEBENDER「阿鼻叫喚ツアー ファイナル」
MO’SOME TONEBENDER
「阿鼻叫喚ツアー ファイナル」
恵比寿Liquidroom
2011.10.29(Sat)
「阿鼻叫喚」。辞書によると「地獄に落ちた亡者が責め苦に堪えられず、泣き叫ぶさま」とある。
実は私もよくライブレポート中、この言葉を使う。もちろん、その字面のどおりではなく(笑)、ものの例えとして。私の場合は、いわゆるライヴのスパートで、ステージから”これでもか!!”と立て続けに、”待ってました!!”の曲が連発された際に、その曲毎に、フロアが”もうどうにでもなれ!!”とばかりのトランス状態に陥り、まるで蜂の巣を突いたかのように、暴れ回り、踊り回る光景を指す時に使う。”これでどうだ!!””これでも喰らえ!!”とばかりに、ご褒美のように次から次へとぶつけられるその曲たちを、フロアや客席は悦んで、身もだえしながら享受。しかも、嬉しさのあまり踊り狂い、暴れ狂うというのだから、よくよく考えれば、極めてMな状況だ(笑)。
この秋に、「阿鼻叫喚ツアー」とタイトルされた全国ワンマンツアーを回ってきた、MO’SOME TONEBENDER。
ふと思った。”はて、いつから、彼らは、そのサバトの司祭と化したのだろう?”と。
私が初めて彼らをライヴハウスで観たのは、かれこれ12年ぐらい前。まだデモカセットしか音源がなく、東京でのライヴも数カ月に一度の頃であった。あの頃の彼らは何か緊張感で壁を作っていた。まだまばらな東京のお客さんを前に放つその硬質で冷たい、それでいてシビレる、ガリンガリンで乾いてザラついた音塊は、狭いライヴハウスながら、お客さんとステージに圧倒的に近寄りがたい距離を作り、近くに踏み込めないほどの孤高性を有していた。そして、そこから放たれる音楽性には、どこか、”一緒にノッてはいけないのではないか…”との緊張感があった。
いや、まてよ。よくよく考えてみると、彼らの今のライヴにしても、中にはトランシ―な曲での一体感溢れる曲がありながらも、基本は投げっぱなし、放ちっぱなし。そう、未だ個我スタイルのままではないか。そして、それとは逆に、我々は彼らから、更なるご褒美を求めるために、次々に放たれる責苦に全身で享受。少しでも女王様に近づこうと、ステージ前方に駆け寄り、求めるようにステージに向け手を伸ばしてるだけではないだろうか。うーむ。どうやら変わっていったのは、彼らではなく、我々のその享受性のようだ。
そして、彼らの今回のツアーファイナルである、この恵比寿リキッドルームでは、その予想以上のご褒美の数々がステージからフロアへと与えられた。
今回も我がラッカは彼らのツアーグッズの制作を担当。 Tシャツ、パーカー、トートバッグを制作した。
オルタナやグランジ、ハードドライヴィンなロックが立て続けにBGMとして鳴っている。そんな中、一際ボリューム高く、NIRVANAの「Smells Like Teen Spirit」が流れると、彼らがこの曲の終わりで登場する予感が会場に満ち、全体にピリッとした緊張感が生まれる。
その予想通り、同曲が鳴り止むと同時に会場が暗転。SEの中、ギター&ボーカルの百々、サポートドラムのSPANK PAGEの水野、そしてギター&キーボード、ドラムの藤田の3人が先にステージに現れる。遅れて、ヨーロッパのサーカス等で見られる巨人のような竹馬を装着した、ベースの武井がのっしのっしと現れ、ステージ中央に立つ。マイクを手に持ち、深くエコーのかかったそのマイクから、「あびきょうかんつあ~~!!!!」とシャウト。16ビートとループ感のある攻め攻めなギターリフが飛び出すと、そのまま武井がGang of Fourのカバー曲「to hell with poverty」を歌い出す。グワッとステージ前方の密度がアップし、緊張感と緊迫感が一気にマックスまで引き上がる。百々がザックザックのギターリフを決め、藤田もスタインバーガーのギターを駆使し、その上を泳ぎ回り、時折り、パーカッションを叩く。フロアを扇動し続ける武井。場内は既に阿鼻叫喚の態様を見せる。そして、武井もベースを持ち替え、ノンストップでそのまま「GO AROUND MY HEAD」に突入。武井は真ん中のポジショニングのまま、強靭なベースを弾き始める。武井のガリンガリンなベースに百々のまるで空間をネジ曲げるような歪んだギター、そこに藤田のギターがフィードバックを起こし、それが不思議な浮遊感を楽曲に加えていく。途中では、藤田がカオシレーターにてアヴァンギャルドなピアノをプレイ。加え、深くディレイのかかった百々のボーカルが場内にコ―ションを引き起こす。ラストはテンポも倍テンに。横一列に並んだ百々、武井、藤田の3本のサオが1フレーズを重ねて行く。
カウントと共にそのまま「Young Lust」にインすると、横向きの叩き姿も印象的な水野が、ダイナミズム観たっぷりな重さとタイトさと、やぶれかぶれ感の入り混じったドラミングを見せる。間には、「今宵は炎上~!!」との武井の口上を加え、それを合図に再び曲に入るところでは気持ちも高揚。場内を更なる炎上へと持ち込む。後半はその武井がボーカルを取り、ラストは彼が全てを持っていく。続いて、藤田のギターがアルペジオ気味のピッキングを見せ、ここで新曲「flying get」が飛び出す。不気味さと百々の歌い方がスリリングさを場内に引き起こす。間のドライヴィング感もたまらない同曲。ここでは藤田も狂気を帯びたギターソロを披露する。更にドライヴ感を加速させるかのように、続いては「Youth」へ。藤田も同曲では、トレモロを使い、楽曲に揺らぎの成分を加える。サビの部分では、フロアも手を上げての大呼応。もちろんリリックにある、「暗闇の隅っこにしがみついたままオールナイトロング」の合唱を交えてだ。ステージでひっきりなしに焚かれるフラッシュが、彼らに神々しさを与え、それに惹かれるように、ステージ前方が密度を上げていく。
藤田がキーボードでスペ―シ―なイントロを流し、そんな中、百々がオープンカッティングをしながら左手をピンと頭上に上げ、「未来は今」を歌い始める。曲の判明と共に場内も驚喜。一緒に歌い出す。ドライヴ感がたまらない同曲。藤田がキーボードで神秘性を加えていき、サビでは場内が大合唱。3本のサオが放つトリプルリフによるドライヴ感は、かなりの鳥肌ものであった。
「今年の春より人力に生まれ変わったやつを演ります」と百々。続く「シンクロニシテイ」に入ると、水野も重いビートを叩き出す。神々しさや神秘性はそのままに、原曲のダンサブルさからは、完全にロックバージョンにシフト。最初にこのバージョンから入った人は、この原曲が打ち込みを基調としていたことを信じてくれるのだろうか? それほど人力トランスロックへと変貌を見せた同曲。もちろん、同曲の特徴であった、あの神々しいハーモニーコーラスは健在。加わる人力ならではの暴発性がたまらない。フロアとステージとが今でもしっかりシンクロしていることを立証してくれた。そして、次の「カクカクシカジカ」では、武井のダウンピッキングも激しくなり、楽曲の速度を上げていく。相の手の「カクカクシカジカ」の部分では、場内も大呼応を見せる。そして、「マカロニ」では、レゲエのダウンビートを交え、プッ太い武井のレゲエベースに、緊張感のある百々が裏打ちのカッティングを加える。そして、藤田がギターカッティングを変わると、今度は百々がギターソロを披露。レゲエmeetsウェスタンな様相を見せる。アウトロでは弾きまくりの藤田のギターソロも交わり、ラストはとてつもない興奮と高みへと会場全体を誘っていく。
続いて、神秘的なシンセのイントロが流れ、百々が「土砂降りの日に作った曲を演ります。良かったら目をつぶって聞いて」と、深淵性と弛緩性を有した深みのあるサウンドと共に、「ONE STAR」を歌い始める。場内全体も目をつぶり、ゆらゆらと揺れながら聴き浸る。深い森の中に居るような錯覚を起こさせる同曲。百々のギターも陶酔しながらソロを放射していく。藤田もキーボードでブログレのようなソロを弾き、時間の流れを忘れさせてくれる大河のような大曲に会場全体が聴き浸る。
前曲の余韻を振り払うように水野が8ビートを刻み、そこに武井がループ感のあるベースを乗せる。2本のギターが乗り、百々が「WINDOW PAIN」を歌い出す。抜き差しやメリハリを大切にしたグランジ的手触りをした曲の登場に場内も大興奮。ミディアムで会場をとろけさせながらも、キチンと高揚感を持った曲に場内も揺れる。ラストは百々もマニュアルでエフェクターのつまみをイジリ場内をカオスへと巻き込んでいく。
打って変わって「メタルカ」に入ると、フロア前方も凄いことに。武井のボーカルパートでは、彼が謎のシャウトを連発。相変わらずフロントの3本のサオから生み出されるドライヴ感が凄い。
「身体をシェイク」と百々。武井もお得意のライトサーベルを持ち出し、「いんざは~~~うす!!!!!」と絶叫。場内を煽り倒す。そのまま土着的なビートの「LOST IN THE CITY」に突入。場内を一瞬にしてレイヴ会場に豹変させる。藤田もドラムパット叩き、楽曲に躍動感を加え、続いてビームサーベルを持ち出し、2本のサーベルが右に左に性急的に振られ、場内も合わせて右に左に激しく揺れる。そして、半ば脅迫的に踊らせるイントロから「BAD SUMMER DAYS BLUES」にイン。前傾姿勢の前のめりなビートがフロアにジャンプの応酬を生んでいく。間には武井もマイクスタンドを振り回し歌う。
また、「hammmmer」では、会場全体が打楽器になっていく。水野もフロアタムを活かした重い2ビートを放つ。深いリバープのかかった呪術のような百々の歌声と、2ビート、2コードの反復が場内に在りえない興奮生んでいく。武井のベースが2コードで繋ぐ中、水野のフロアタムを活かした重いお祭りドラムに、藤田もパーカッション加える。「BIG-S」だ。ミディアム部を挟むが故に躍動感が映える同曲。ラストは段々とゆっくりになりつつ、急遽ピッチアップ。最後の疾走を見せる。
「また新しいの(作品)を作ってボチボチ行きます」と百々。「いつになるかわからんけど」と笑って付けくわえる。ラストは穏やかなイントロに入りつつ急変。藤田もジャンピングしながらドラムに座り、ツインドラムを披露。「GREEN & GOLD」に入る。深いスモークと轟音の中、後から当たる白色のライトが神秘性を楽曲に加えていく。ラストは藤田もスネアをかぶり、フィードバック音を場内に残し、彼らはステージを降りる。結局最後まで阿鼻叫喚させ尽くし、され尽くしであった。
アンコールにも彼らは応えてくれた。百々も上半身裸になり、脱いだTシャツをフロアに投げ入れる。「新曲演るから聴いてよ」と百々。藤田もMr.BIGばりにドリルを持ち出し、それをバイブレーター代わりにギターに当て、振動音を増幅させる。ドリーミングなイントロから一変。ドライヴ感のある適度な上昇感を有した同曲は、ラストに於いては、まるでどこまでも高みへと誘ってくれるかのように響いた。
アンコール2曲目は、怒涛性溢れ、彼ららしい大団円的ナンバー「High」。この身を全て委ねるような怒涛のドラムと緊張感のあるギターが、共に発狂。ステージ全体が神々しい光に包まれる。
やはり、この会場に集まったお客さんはMばかりだった。だって、”これでもか!!””これでもか!!”と、必要に攻めの手を緩めない彼らのサディスティックな音楽に対して、全て身を委ね、享受するのみならず、”もっとくれ!!”と懇願したり、ノリの良い曲に飛びついたり、激しい曲に驚喜したり…。そして、結局のところ、それを我関せずでストイックに放ち続けるステージのメンバー。独尊的な放出の中、終始確かにあったフロアとの一体感と信頼関係は、まさに特筆すべきところだろう。
彼らと出逢って既に10余年。やはり今だ変わっていない彼らとのこのコミュニケーションを、なんだか愛おしく、尊く崇高に、改めて思えた一夜だった。
Report : 池田スカオ和宏
オープニングの武井の登場の際に履いていた竹馬。特別にパシャリ。
【SET LIST】
1. to hell with poverty
2. GO AROUND MY HEAD
3. Young Lust
4. flying get
5. Youth
6. 未来は今
7. シンクロニシテイ
8. カクカクシカジカ
9. マカロニ
10. ONE STAR
11. WINDOW PAIN
12. メタルカ
13. LOST IN THE CITY
14. BAD SUMMER DAYS BLUES
15. hammmmer
16. BIG-S
17. GREEN & GOLD
Encore
En-1. shining
En-2. HigH
【MEMBER】
Vo.&G. 百々和宏
B.&Tp. 武井靖典
G.&Dr. 藤田勇
That Evening Support Drummer
水野雅昭(from SPANK PAGE)
【PROFILE】
1997年にそれぞれ福岡でバンド活動を続けていた3人が集まり活動開始。
ライブ活動、自主カセットなどのリリースを経て、’99年にQUATTRO/UK DISCSより初CD「DRIVE」をリリース。練習スタジオで濃密に録音された盤と圧倒的なテンションによりライブハウス界隈で話題に。
アルバイトをしながら年間100本近いライブを敢行し、圧倒的なライブ・パフォーマンスを身につけて行く。その後もコンスタントにリリースを続け、’01年にはユニバーサルと契約。メジャー初のアルバム「HELLO」をリリース。音楽性はガレージからポップで切ないロックまでより幅広く進化させていく。
そしてその後、激初期衝動発明的オルタナティブ・アルバム「LIGHT,SLIDE,DUMMY」をリリース。年間ベストアルバムにも数多く選出される。そしてメジャーを離れ、NEO NEW WAVE的ナボーダレスな野心作「TRIGGER HAPPY」をリリース。奇しくも世界的なロックの流れに乗ったその作品はロック・フィールドのみならず、フロアからも熱い耳目を集めた。
2008年、アルバム『SING』を発表。2010年春頃よりサポートドラマーを加え、フレキシブルにライヴを展開。2010年にはアルバム『STRUGGLE』をリリース。
2011年3月には初のアメリカツアーも敢行。同年4月、初のBEST盤『BEST OF WORST』をリリース。これまでにミニアルバム&アルバムを13枚、シングルを10枚発表している。
【NEW ITEM】
BEST ALBUM
『BEST OF WORST』
COCP-36672
¥2,500(Tax in)
NOW ON SALE
【日本コロムビア】
1.未来は今 ver.2011
2.GREEN & GOLD
3.ロッキンルーラ
4.HigH
5.TIGER
6.ペチカ (long flight ver.)
7.冷たいコード
8.DAWN ROCK
9.凡人のロックンロール
10.DUM DUM PARTY
11.hang song
12.Lost In the City
13.Bad Summer Day Blues
14.We are Lucky Friends
15.echo
16.ストロベリータイム (bonus track)
【LIVE INFORMATION】
http://www.mosome.com/live/
【ARTIST HOMEPAGE】
http://www.mosome.com/