THE NOVEMBERS「November Spawned A Monster」
THE NOVEMBERS
「November Spawned A Monster」
@東京 恵比寿リキッドルーム
2010.11.17(Wed)
観る度に不思議に思っていた。ノーベンバーズのライブでの、お客さんの反応やリアクションをだ。いや、これは別にノリが悪いとか、呼応が少ないと言っているわけではない。自分も彼らのライブでは、ある時はなす術もなく立ちつくしたり、その世界観に浸り我を忘れて身を委ねたり、その高揚を抑え切れずに身体が前傾姿勢になったりしてきた。しかし、それは近似の世界観やサウンド形態を持つバンドのライブに見られるものとは異質のもの。そう、通常ノーベンバーズの音楽タイプや世界観を持っているバンドなら、高揚する場面がくると、ステージ前方にオーディエンスが押し寄せ、呼応し、コミュニケーションを求める者と、その後方には眼前に広がるそれらの光景も含み、会場を支配する世界観にどっぷり浸っている者との二層構造が見られるものだ。しかし、このバンドときたら、各人が各々スペースを持ち、そこにて、ある時は浸り、ある時はその世界観に自分を泳がせ、ある者は心の中で抗っている、そんな光景が展開されている。かといってステージとフロアとでコミュニケーションが取れていないかというと、全くそんなことはない。いや、むしろ言葉や呼応、コール&レスポンス無くとも、それ以上の繋がりや結びつきを感じられたりする。このメカニズムは何だろう?それを探るべく、今回はステージとフロアの反応やみんなの表情がしっかり見て取れる場所にてレポートすることにした。すると、気づいたことが…。いや、これは後述しよう。
彼らのバンド名と同様の11月。昨年同様、「November Spawned A Monster」とタイトルされたワンマンツアーが今年も東名阪にて行われた。全箇所チケットは早期のソールドアウト。今年は東京にて追加公演も発生した。そして、この日はツアーファイナル。恵比寿リキッドルームは満員のお客さんの期待値でいっぱいであった。
今回も我がラッカは、このツアー限定のパーカー、Tシャツ、フェイスタオル、そしてパスケースや、ボーカル&ギターの小林デザインの缶バッヂのツアーグッズ一式を作成した。
ほぼ定刻。場内BGMのプリンスの「1999」が止むと場内が暗くなる。SEに乗り、ステージ後方から照らされる白系ライトの中、現れる4人。各人フォーメーションにつき、楽器と足元のエフェクター類を確認する。SEが止み、会場がゴクリと唾を飲むように放たれる一音を待つ。そんな構えた緊張感を優しく慰撫するように、ボーカル&ギター小林のアルペジオと優しい歌い出しでライブは始まった。歌声がリアルサンプリングでループされ、包まれるような美しい輪唱を作り出す。まどろむような温かい世界観に会場が包まれる。その雰囲気にうっとりするもつかの間、それらをかき破り、小林のダウンカッティングが会場に鳴り響く。1曲目は「Misstopia」だ。スケールの大きな、柔らかく包まれる曲に白を基調にしたライティングが絶妙にマッチ。ベースの高松のコーラスも加わり、一層優しく包む雰囲気が会場に満ち、ギターのケンゴが生み出すハーモナイズドされたシンフォニック音が壮大感と幻想感を生む。穏やかで至福そうな表情の会場。柔らかく優しいんだけど、しっかりとドラマティック性を有した楽曲に会場中が浸る。そして、その雰囲気を破るように、小林のディスト―ションギターから次の「Chil」に突入。吉木の手数も多くなり、次にやってくる轟音とドライヴ感が気持ち良い。小林とケンゴがギターをユニゾンで弾き、高松と吉木のリズム隊が、ストームのようなドラマティックさを作り出す。次の「Exit」に入ると会場の雰囲気もダークに急転。深海的な世界へと惹き込む。初期からの曲の出現に会場もグッと一歩前のめりになる。小林もエモ―ショナル&発狂的に歌い、高松がグル―ヴィーさを生む中、ケンゴも激しくアクション。とは言え、間にはキチンとコーラスで甘美さを織り交ぜるところは、今の彼らならでは。ノンストップでインした「僕らの悲鳴」では、抜き差しでメリハリをつけながらも、間奏部の高い発狂性が場内に興奮を生む。
しばしのチューニングタイムが訪れる。吉木がその間もドラムでつなぐ中、そのまま「アマレット」に突入。メローなアルペジオと小林の歌と世界観に会場がたゆたう。ケンゴのギターが無限性溢れるフレーズを奏で、吉木がアウトロがてらに刻んだビートから、そのまま「ewe」に入ると、空間をネジ曲げるようなサウンドと、ねじれたストレートさが会場中を支配する。場内にも動きが現れ、間奏導入部では小林が歓喜のシャウトを放ち、それを呼び声に力強く突き進む。曲は突然に終わり、間髪置かず「pilica」が始まる。ケンゴのギターからシンフォニック音が流れ、会場に景色観が満ちる。深いエコーの中、ケンゴのギターソロも雄大に響き渡り、間奏では上昇感とカタストロフギターを織り交ぜながらも、会場を天国へと誘う。嵐の中に身を置きながらも、心は穏やか、なんかそんな感じだ。
次の「philia」では、逆ループのサンプリング音が場内に溢れ、吉木が16ビートを刻み、高松のベースがその上昇感を引っ張る。歌の高揚感に合わせ、ステージも発光していき、会場を幻想的で眺めのよい場所へと誘う。ラストに向かうに連れ、とてつもない高みと至福感を会場に与えてくれた。
ここでチューニングタイム。小林もアコギに持ち替え、軽い挨拶。この日は朝から雨が降っていたことを指し、「高松とこのバンドを始めた頃から、いざという時のライヴでは雨が多かったこと」「小さい頃、喘息だった関係か、雨の日は呼吸がしずらくなり、胸苦しくなること」しかし、「最近は雨が良く思えるようになってきたこと」。それは、「水に流すって言葉もあるし、音もするし、次の日が晴れだと、前日が雨だったことなんてすっかり忘れちゃったりすること」、そして、「今日のライヴも昨日まで何があったのか、関係なく楽しんで欲しい」旨を伝える。
ライヴに戻る。小林のアコギと歌による柔らかく優しい歌い出しから始まった「mer」では、再びケンゴがシンフォニックな音を絡める。この歌の方がよっぽと心を苦しくさせるよ、小林くん(笑)。小林のファルセット気味のボーカルに、高松のコーラスが重なり、この歌中、最も伝えたいと思しき箇所が強調される。一瞬グワッとするところを挟み、再び小林の歌とギターに戻るところでは、何気ない日常生活が人々の心の中でかけがえのないドラマに変わる瞬間を見た。
ギターを再び白のジャズマスターに持ち替える小林。そのまま長めのギターカッティングから「ウユニの恋人」にイン。高松の荒っぽいベースのダウンピッキングも楽曲を引っ張り、会場も合わせて身体を揺らす。続いて、彼らの中では珍しい、前のめりでスピーディ、疾走感のある「Gilmore guilt more」が叩き出される。高松のベースもモータードライヴ感を煽り、間奏でのリズム隊が生み出す高揚感がたまらない。そこに小林のシャウトと緊迫感を掻き立てるケンゴのギター、小林もマイクを手に歌い、会場に”ウォーッ、もうどうにでもなれ!”との緊迫感と興奮が巻き起こる。そこから再びモータードライヴ感に突入するところは鳥肌もの。グワッとした気持ちを抑えるのが大変なのだろう、会場全体も上気しながら前のめりに魅入る。
ここでチューニングタイム。「凄く昔に作った曲を聴いて下さい」との紹介で「天井と管」に入る。高松のガリンガリンなダウンピッキングと共に、シアトルライクなグランジナンバーが飛び出す。絶望と諦念、それでいて今にも通ずる甘美さが見え隠れする曲だ。ここでのギターソロは小林が担う。続いては新曲。ダークで耽美、どこか1stアルバムの頃に近い手触りと雰囲気を持った曲だ。しかし、いかがわしさを有している面は、あの頃の雰囲気とは明らかに違う。ケンゴもネックやヘッド付近のカッティングを交え、それが演出音の役割を果たす。前曲が終わるや否や、「I’m in no core」にイン。再び明るさと広がりが会場に満ちる。会場中も身体を揺らせている、と思いきや、一瞬にして奈落へ。インパクトのある歌詞が救われなさを助長。高松のアクションも大きくなり、曲が進むに連れ、小林の歌にも激が入る。ノンストップで「パラダイス」に突入。高松とケンゴがベースとギターでパラレルなユニゾンをかます。そこに雄大感のある小林のギターが交じり、楽曲に広がりが生まれる。「遊びにいこう」と、ノーベンバーズの世界観、いや、彼らの言うパラダイスへと誘う。の割には、次に歌われるフレーズは「壊しにいこう」だ。間奏の後の小林のギターがカオス感を生み、ケンゴも陶酔混じりにフレーズのループを繰り返す。
続く「she lab luck」が始まると、会場に再び明るさが取り戻る。昔と違い、ダンサブルさを織り交ぜたドラミングに会場も身体を揺らせる。深部をえぐるようにズンズン進む吉木のドラム。ケンゴもラストは発狂カッティングをかます。
チューニングタイムがやってくる。
ケンゴの鉄槌的なギターカッティングと小林の歪んだトレモロフレーズ、高松のループ感と吉木のダイナミックな8ビートが「dysphoria」の幅を広げる。小林のシャウトに加え、ケンゴも高松も首を振り回し、オーバーアクションで魅入るアクセントを加える。そのまま聴き覚えのあるドラマティックなギターフレーズが会場に広がる。「こわれる」だ。合わせて会場が揺れ、ケンゴと高松のアクションも益々激しく。間のドライヴ感溢れる部分や、小林のギターソロへの突っ込みは何度見ても鳥肌ものだ。そこから吉木のフロアタム混じりの力強い8ビートから「白痴」に。緊迫感と狂気がステージに漲る。小林もヒステリックにエキセントリックにシャウトする。「理解して 支配しあう」のフレーズから怒涛のラストへ。小林もケンゴも座り込み、ブームマイクのスタンドをギターにこすりつける。放り出した各楽器と残響音を残し、メンバーはステージを去った。
徐々に消える残響と、それが完全に消え、一拍置いて我に返るように起こる拍手。
アンコール。「去年も同じ時期に同じ箇所をワンマンで回ったこと」「あっと言う間の1年だったこと」「あれは今春発売のアルバム『Misstopia』の発売以前だったこと」「それ以前、以後の感覚」や「今日、今、この瞬間のこと」等を続ける。
アンコールの1曲目は、新曲からプレイされる。先程の新曲とうって変わり、こちらは穏やかで優しげ、あの日、あの時へと思いを馳せさせるナンバーだ。高松のハーモニーも加わり、それが楽曲にふくよかさを加える。間奏で広がっていく美しさと安堵感溢れるコーラスの美しいことよ。「これから確かめにいくよ」とラストで歌われるとおり、この歌の先を一緒に確かめに行きたくさせる楽曲だ。続いてはお馴染みの「バースデイ」。穏やかに始まりながらも、激部に入ると会場のミラーボールも回り出し、神々しさが会場に満ちる。穏やかさから一変、その激昂具合に、会場の温度も一気に上昇した。
ダブルアンコールで再度登場した彼ら。何故か小林はフード付きのコートを着て登場(このコート、今回のツアーの音響さんにもらい、とても温かいとのこと)。小林がMCでつなげる。「楽しみ方には作法がなく、楽しんでいれば良いこと」「僕とアナタの間にある関係こそが尊く、それがもっと大きくなっていって欲しいこと」「逆光でフロアが見えないけど、(みんなが)凄く良い顔をしていたらいいな」的なことを述べ、ラストの「ア_-オ」が始まる。定期的に響くフロアタムの上、たゆたうケンゴのギターと揺らぐ高松のベース。深海から光のある方向にゆっくりと上昇していくかのようなナンバーに、最後にはありえないほどの高みと至福、そして景色を見せてもらい、とてつもない至福感や永劫感が会場を包む。
そうそう。前述した、僕が前列からステージとフロアを交互に見ながら気づいたことを報告しよう。いみじくも前回のライヴレポで僕は「彼らの音楽や世界観にお客さんが浸っているから、あの現象が起こる」的なことを書いた。しかし、実際にそこから見えた光景は、それとは若干違っている気がした。いや、正確に言うと、非常に近いんだけど、やはりちょっと違う類のもの。それは、多くの人がステージをじっと凝視していながらも、きっと観ている先は、演奏をしている彼らのその先だったこと。プレイしているメンバーを通り越し、その向こうに自分なりの物語を広がらせているように映った。そう、それはまさしくレポートをしていない時に彼らのライヴを観ている時の自分と一緒。多くの人が観ていたのは、ステージでありながらステージではなく、ステージをすり抜けて、その向こう側に広がる自身のインナーワールド。彼らの放つ世界観の中、自身なりの物語を広げていったり、自身を佇ませたりしていたのではないだろうか。その光景に出逢った時、毎度ライブ中に小林が言っている、「楽しんで欲しい」の真意に、少し近づけた気がした。ノーベンバーズのライヴは、<あのようなフロアの状態ながら、みんなしっかりと楽しんでいる>。今度小林に会ったら、そのことを真っ先に伝えたいと思った。
Report : 池田スカオ和宏
【SET LIST】
1.Misstopia
2.Chil
3.Exit
4.僕らの悲鳴
5.アマレット
6.ewe
7.pilica
8.philia
9.mer
10.ウユニの恋人
11.Gilmore guilt more
12.天井と管
13.新曲
14.I’m in no core
15.パラダイス
16.she lab luck
17.dysphoria
18.こわれる
19.白痴
Encore
En-1.新曲
En-2.バースデイ
Double Encore
W-En-1. ア_-オ
【MEMBER】
LtoR
Vo.&G. 小林祐介
Dr. 吉木諒祐
B. 高松浩史
G. ケンゴマツモト
【PROFILE】
2002年に小林と高松によって前身バンド結成。2005年3月、THE NOVEMBERSとしての活動をスタート。3種リリースしたデモテープが話題となり人気を高めていく。2007年11月、1stミニアルバム『THE NOVEMBERS』をリリース。2008年6月、1stアルバム『picnic』リリース。それを引っ提げて行った全国15箇所にも及ぶツアーは各所大盛況。同年夏には各所フェスにも出演、大反響を得る。2009年4月、2ndミニアルバム『paraphilia』をリリース。多数の著名気鋭ロックバンドとのツアーや各種夏フェス、大型イベントに参加。同年11月には東名阪ワンマンライブも全公演SOLD OUTを記録する。2010年3月、待望の2ndアルバム『Misstopia』をリリース。3箇所のワンマンを含む全国14箇所のレコ発ツアーを敢行。その後も各地夏フェスや全国ツアーを行い、同年11月には、前年に引き続き東名阪ワンマンライブ「November Spawned A Monster」を行い、全箇所ソールドアウト。追加公演も行われる。
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THE NOVEMBERS
『Misstopia』
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¥2,415(Tax in)
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M-1.Misstopia
M-2.Figure 0
M-3.dysphoria
M-4.pilica
M-5.パラダイス
M-6.sea’s sweep
M-7.Gilmore guilt more
M-8.I’m in no core
M-9.Sweet Holm
M-10.ウユニの恋人
M-11.tu m’
【LIVE SCHEDULE】
http://the-novembers.com/category/live/