Predawn 1stミニアルバム『手のなかの鳥』Release Party
Predawn
1stミニアルバム『手のなかの鳥』Release Party
2010.7.14
@新宿MARZ
Predawn(プリドーン)は英語詞が中心の女性シンガーソングライター。この6月2日に初のミニアルバム『手のなかの鳥』を発表したばかりだ。
今日7月14日はその彼女の作品リリースライブ。会場の新宿MARZは、そのアルバムの好評さを物語るように、トリの彼女の出演時には立錐の余地もないほどの超満員となっていた。そんな密接感や密集感とは裏腹に、会場の一人ひとりがそれぞれに彼女の紡ぎ出す歌世界に入り込み、浸ってたのが印象的な一夜であった。
実は彼女のライブレポは今回が2回目。最初は昨年11月。音楽専門誌「Quip Magazine」プレゼンツで、当社もサポートした『shimokita round up2』というサーキット式の音楽フェスであった。小さな身体には若干大きく映るアコギを抱え、アルペジオで爪弾かれるギターの上、キュートで消え入りそうな発音の良い英語詞の彼女の歌は、独特の雰囲気でライヴハウスを包み、その場に居合わせた多くの人の胸に、ポッとした明かりのようなものを残してくれた。
あれから8ヵ月。縁あって我がラッカでは今、彼女のTシャツやトートバッグといったグッズを作らせてもらっている。
幕開けと同時にスモールスケールのアコギを爪弾きながら彼女の歌声が場内に広がっていく。1曲目は「Another sun」。アルペジオに乗せられ、ストーリーテリングのように、しっとりと透明感のある歌声が、つぶやき、ささやくように聴き手の鼓膜を触手する。彼女の放つ世界観に会場全体が聞き耳を立て、静かに見守るように聴き浸る。そこからまるでメドレーのようにビートルズの「Lucy in the Sky with Diamonds」に入る。今まで聴いたどのカバーにも当てはまらない、彼女ならではの楽曲に生まれ変わった同曲は、サビのフレーズが現れるまで、それに気づかないほどであった。流れはそのままアルペジオとストロークを使い分けたギターも印象的な「Nightfall」に続く。他の女性ジャパニーズ・シンガー・ソング・ライターたちとは一線を画す、どことなくスコティッシュやカントリー、ブルーグラスからの影響を感じさせる、変則的な3フィンガー・アルペジオと、どこかひんやりしながらもその実温かさを有した歌声が、実質は1対数百人の会場ながら、あくまでも一対一にスーッと染み込んでくる。
まずは3曲をプレイし、MC。ちょっと照れた笑みを見せ、「自分のレコ発ライヴなのに自覚がなくて…」と会場を和ませる。先ほどまで、<この世界観を聞き漏らすまい>と漂っていた会場の緊張感に和みが加わる。
彼女の歌声は不思議だ。キュートではかなげで、その実どこかに緊張感を漂わせている。とは言え、その緊張感はけっしてピキーンと張り詰めた類ではなく、ドリーミーなのだが注意深く聴かせ、聴きたくさせるもの。例えるとグリム童話の世界観が近いかもしれない。
ライヴ本編に戻る。続いてはサドンリ-とヘブンリ-の韻の踏み方もキャッチ-で印象的な「Suddenly」。タップとアルペジオを上手くブレンドしたギターの上、キューティだけど多少のクルーエル観のある歌に会場も聴き入る。「こんなに大勢お客さんがいるのに対して、私の方はひとり(笑)。…リリース・パーティだと言うのに、こんなにパーティという言葉が似合わないアーティストはいない」と自嘲気味に笑う。そして、始まったのは「Custard Pie」。これまでの曲に比べ、多少の軽快感のある同曲は、<いつかパイ投げをしたい>、そんな歌だと言う。曲は続き、アルペジオでそのまま「Apple Tree」に繋がれる。
ちょっと上を見たり、ストーリーテリングをしているかのように目を閉じたり、時々ギターの運指を確認したり、終始自分の描く物語観を頭に広げるように歌う姿が印象的な彼女。淡さはあるのだが、しっかりと瞼の裏に物語を浮かばせるその歌世界は、やはり童話に似ている。
ここからは彼女初の試みとして、バックにドラムとヴァイオリンを交え、3曲ほどプレイされる。まずはピチカートを上手く活かしたヴァイオリンと、曲に今までなかった躍動感を加えるドラムをバックに、彼女の歌声も更にイキイキと伸びやかに響いた「Little Green」。あえてジャジーに成り切らせないブラシとシャッフル的なドラミング、間を上手くメロディアスに泳ぐヴァイオリンも印象的、心なしか彼女の歌声にも多少のウエット感が交わった印象を受けた「Free Ride」。バスドラを上手く利かせ、抜き差しによる物語性が会場に大きく広がっていった「Tunnel Light」と、初めての試みはどれも大成功。より物語を聴き手の中で広がらせてくれた。
再びステージ上には1人になった彼女の姿が。「What Does it Mean?」を始める。消え入りそうなのだが、しっかりとした歌声とカントリータッチのアルペジオは、クリスピーに成り切らず、微妙にウェッティなんだけど、しっかりエバーグリーン感を有していた。曲のテーマでもある天の川に見立てた演出なのだろう。回らないミラーボールにライトが当たり、ちょっとした幻想とドリーミ-さの中、歌われた「Milky Way」にフロア全体が目を閉じて聴き入り、曲に聴き浸る。そのまま「Lullaby from Street Lights」の儚げな歌が場内を満たし、この日唯一の日本語詞の歌「虹色の風」へと繋ぐ。優しげで風や空を感じさせる同曲。<愛しい声、愛しい風、君が笑う>と、彼女の描く歌に乗せ、1人ひとりがきっと自身の虹を思い浮かべたことだろう。
「ほがらかのかけらでも家に持って帰り、眠ってくれたら嬉しい。しかし、次はやはり眠れない歌で…(笑)」と、本編ラストの「Sheeps&Tears」に入る。グッドナイト的にも響く同曲に会場は、まるで微睡みのように聴き浸る。
ここからはアンコール。まずはアルペジオとストロークを上手く交えた「Keep Silence」。ここまでプレイされた曲たちに比べ、展開も多く、大サビもあり、よりドラマ性溢れる曲との印象を受けた。そして、正真正銘のラストは「Insomniac」。すなわち「不眠症」だ(笑)。ハーモナイズドを上手く活かしたナンバーで、タイトルの割には、夢見心地でフワフワした気持ちにさせてくれた。
彼女の歌は、そのまどろみ感や心地良さ、意識のトランスポートも含め、眠りに入る直前に似ている。色々なよしなしごとを思い返しながら、スッと睡魔に引き込まれるあの感覚。想像していることなのか?夢なのか?その境界線が飲み込まれる、あの感じ。現実感と非現実的感の狭間や移行。そんな類いに近い。
そのような心地よさを身体全体に残し、会場を後にした、この日。今日はなんだか彼女の描いていた歌が、自身の夢となり、夜明け前の僕の眠りの中を広がっていきそうだ。きっと、それは今まで体験したことのない、不思議さと心地良さを持った夢にちがいない。
Report : 池田スカオ和宏
【SET LIST】
1.Another sun
2.Lucy in the Sky with Diamonds
3.Nightfall
4.Suddenly
5.Custard Pie
6.Apple Tree
7.Little Green
8.Free Ride
9.Tunnel Light
10.What Does it Mean?
11.Milky Way
12.Lullaby from Street Lights
13.虹色の風
14.Sheeps&Tears
Encore
En-1.Keep Silence
En-2.Insomniac
That Evening Support Musicians
Dr. 秋山隆彦(KAREN、downy等)
Vn. 楢原英介(VOLA&THE ORIENTAL MACHINE)
【PROFILE】
Gt.&Vo. 清水美和子のソロプロジェクト。4歳からピアノ、6歳から作曲、中学時代にギターを始め、2008年からPredawn名義でソロ活動を始める。完全自主制作盤「10minutes with Predawn」をライブ会場と一部店舗で販売。大きな反響を受ける。自身の作品を始め、現在までにトラックメーカーEccyの3作品にボーカルとして、andymoriの1st Album、QUATTROの2nd Albumへもコーラスとして参加。また、Fuji Rock Fes ‘09、ap bank ‘09にも出演し、一般への認知も上げている。2010年6月2日、1st mini Album『手のなかの鳥』を自身のレーベル”Pokhara Records(ポカラレコーズ)”よりリリース。7月14日には大反響を受けた同作品のレコ発ライヴを行い。超満員の大成功に収める。
【NEW ITEM】
1st mini album
『手のなかの鳥』
RDCA-1015
¥1,600(Tax in)
【Pokhara Records】
NOW ON SALE
M-1. Lullaby from Street Lights
M-2. What does it mean?
M-3. Suddenly
M-4. Custard Pie
M-5. Little Green
M-6. Apple Tree
M-7. Insomniac