THE NOVEMBERS The World Will Listen - 2014.7.11@EX THEATER ROPPONGI
THE NOVEMBERS
The World Will Listen - 2014.7.11@EX THEATER ROPPONGI
W / ART-SCHOOL、ストレイテナー
「今、たくさんの人に届けるんだっていう姿勢みたいなものに責任をとれる状態にいる」——シングル「今日も生きたね」の取材時に小林祐介が話してくれたTHE NOVEMBERSが次に足をかけているフェイズについて。それは同シングルのリリースツアーである今回の内容がいずれも日本のロックシーンにあって、コアとかポピュラーとかいったラベリングができない、1バンド(アーティスト)1シーン築けるほど存在感のある”相手”との2マンだったことに、大きな意義を感じる。改めて書き出してみると、Czecho No Republic、Chara(この日はバックバンドもTHE NOVEMBERS)、OGRE YOU ASSHOLE、後藤まりこ(独演)、髭、Galileo Galilei。主観的に言わせてもらえば、なんて妥協のない対バンなのだろう、と思う。ブッキングからしてすでにチャレンジングだ。でも、どの日もどれだけ緊張感に満ち、新しい音楽との出会いがあったかは想像に難くない。「たくさんの人に届ける」=つまりこれまでTHE NOVEMBERSの音楽に触れる機会がなかったオーディエンスにも、音楽そのものでで心震える体験をしてほしい、その欲求をある程度、具体化したのだから。
そんな豊穣なツアーのファイナルは少し趣きが違った。小林が敬愛の念を普段から表明しているART-SCHOOL、そしてさらにストレイテナーを招いたこの日。もちろん、他の日もアーティストとしての敬愛の念は同じだと思う。が、この日はTHE NOVEMBERSの音楽や姿勢の血肉の一部である先輩を招いた。バンドを継続していれば「いつか必然的に」誰かがブッキングしてくれるかもしれない。でも、この日は少なくともそうじゃない。バンドの意志によるものだ。
7割方埋まったフロア、定刻通り客電が落ちると一番手に登場したのはART-SCHOOL。THE NOVEMBERSのファンの中にも当然、彼らの世界観を愛してやまない人も多いと思うが、果たして木下理樹(Vo.&G.)はどんなスタンスでこの日に臨んでくるのだろう?おなじみエイフェックス・ツインのSEをかき消すようなフィードバック・ノイズで空間を満たした後、戸高賢史(G.)のクリーンなトーンが鳴り響き、1曲目は「DIVA」。その後もこの日のセットリストは先日のニューアルバム『YOU』のツアーとは趣きを異にする、ART-SCHOOLが結成以来、何度も何度も、木下の潔癖なまでの世界に対する拒否感や、終わってしまった蒼い季節が瑞々しく曲の中に真空パックされたような作品群——「SAD MACHINE」しかり「ロリータ キルズ ミー」しかり、「FADE TO BLACK」、「プールサイド」しかり―−が、セットリストの軸を形成していたのが象徴的だった。20代前半の頃の木下、ひいては、その頃のメンバー、つまりこの日の対バン相手であるストレイテナーの日向秀和や大山純がメンバーだった頃の、たった一人で世界と対峙しているような悲痛さは今の木下には正直感じない。しかし、今のART-SCHOOLの意思表示である「YOU」が、様々な音楽的なチャレンジや、現在のサポートメンバーである中尾憲太郎(B.)、藤田勇(Dr.)という鉄壁の布陣のテクニックやアンサンブルの補強をいい意味で意識させない、相変わらずの木下節であることが、”自分のままで強くなる”とはどういうことなのか?それを体現していたと思う。グランジ、シューゲイザーを主に、ギターロック全般を飲み込む大きな精神的な容れ物としてのART-SCHOOLのあり方を再認識できたのは、THE NOVEMBERSからのオファーを受けてのライブだったからなのではないか。きっかり1時間、全14曲。ガチな対バンである。
ART-SCHOOLの初期からの代表曲に熱いリアクションを送るファンを相当数、確認した段階で、この3マンそのものを待望して足を運んでいる人の多さを実感したのだが、それでもいい緊張感は途切れることがない。続いて登場したストレイテナーに対する歓声も大きい。オープナーはミディアムでじわじわとエモーションを上げていく「A LONG WAY TO NOWHERE」。それぞれの”荒野”で戦う同志を祝福するような選曲、と勝手に解釈して胸が熱くなる。ナカヤマシンペイ(Dr.)と日向(B.)の人力ドラムンベース的なイントロ、久々に聴く「BIRTHDAY」もうれしい。彼らもまた今日この日のためのセットリストを用意してきた。「俺たち、ストレイテナーっていいます。ノベンバーズ(ホリエはこう発音する)、今日は呼んでくれてありがとう。精一杯やります」。ストレートに言葉にするホリエアツシ(Vo.&G.)の漢っぷりはもちろん、バンドの普段通りの渾身の演奏にも”精一杯”が見て取れる。
中盤に披露した新曲「Super Magical Illusion」は、ライブで初めて聴いた(見た)のだが、グラマラスなR&R的な地メロから、J-POP的ですらあるサビ(というか場面転換?)へ景色が変わる瞬間のダイナミズムは一体なんなんだ? 元々ハイブリッドなバンドだからできる高等戦術とも言えるけれど、この落差はストレイテナーのキャリアの中でも相当だと思う。フロアもこのスリルに素直に反応する。
また、この日ならではという意味では、ホリエが「ノベンバーズもアート・スクールも、純粋で我が道を行くバンド。俺は好きです。この曲はそういう2バンドに捧げます」という賛辞とともに演奏した、美しいピアノメインの「イノセント」はこの日の選曲、演奏の中でも白眉だった。ラスト2曲は初見のオーディエンスも巻き込む「シンデレラソング」、そしてどの曲で締めるんだろう?と思っていたら、自他ともに認めるビッグアンセム「Melodic Storm」で、潜在的なファンの多さを浮き彫りにして終了。全9曲にこのバンドの懐の深さを見た思いだ。そして端からノるためではなく、飽くまで曲に反応して広がっていく熱量の上がり方が、この3マンらしくて好感を持った。
ART-SCHOOLとストレイテナーに感謝を述べ「楽しい夜を。ノ—ベンバーズ、始めます」と、小林(Vo.&G.)が告げる。力のあるまっすぐな声で。そこにケンゴマツモト(G)のユニゾンのフレーズが響き、1曲目は「彼岸に散る青」。いきなり高松浩史(B.)と吉木諒祐(Dr.)が放つ重低音がすごい。スタンド席でも自分の髪が振動しているのがわかる。小林のボーカルも心臓を射すくめる強さだ。悲鳴を上げる生き物のようにエフェクターで轟音が上昇しきると暗転、靄のような光が差し、一転、穏やかで輝度の高い「Flower of life」が無邪気な子どもの気持ちを持ったまま、同時に子どもを見守るような優しさを見せる。間奏で際立つ高松の歌うベースラインと、深い森に差しこむような高い位置からのライトが呼応しているようだ。アルバム『zeitgeist』ではあっさりしたエンディングのこの曲の残響を次の「Reunion with Marr」につなげるライブアレンジも心憎い。広がりのある開放的な曲だが、後半のリフレインには何か感覚が麻痺していくような中毒性も。それにしても冒頭の「彼岸に散る青」のエクストリームな轟音も、その後の澄んだ美しい音色もTHE NOVEMBERSの音楽としての説得力がこれまでのどのライブより強いな、そんな感想を序盤にして早くも抱いた。どの時期の楽曲も並列感が強いのだ。
そしてニューシングル「今日も生きたね」を作る発端になった「ブルックリン最終出口」では、音源より小林の自意識が漂白されたような、音階の心地よさに耳がいく歌唱に気づく。アレンジは、ポップスが持つアレンジの洒脱を俯瞰したような曲だと思うのだが、この日の小林の肩の力の抜けたボーカルは、長らく封印していたこの曲の発端の意識も解放してあげているように聴こえた。
この日はここ最近のテリブルで不穏なレパートリーは数少ない。久しぶりにライブで披露した「ウユニの恋人」は、ジャンルで言えばよく動くベースラインなどニューウェーヴィな部分も多い楽曲だが、メンバー全員のプレイヤビリティが快適に表現されると、ただただいい曲、スケール感とポップさが絶妙な楽曲として届けられ、THE NOVEMBERSを知らないリスナーにも今の演奏で聴いてほしい、もっと言えばヒットしてほしいと思うほどポピュラー音楽としての強度があった。そしてさらに驚いたのがホーリーな小林の高音から始まる幽玄な「philia」の進化。シガー・ロスの深遠さと、それよりもっと素朴な感触も残しながら、リズムは鋭角に人力ドラムンベースを叩き出し、音楽だからこそ脳内に描き得る、硬質なのにどこまでも広がっていくような体感に思わず浸ってしまう。猛獣の叫びのように上昇するギターサウンドと同調するような白化するライティング。見えないモンスターのようだ。気づけば瞬きする回数が減っている。冗談でも比喩でもなく、それぐらい演奏とシンクロする演出に釘付けになっていた。穏やかと分類される楽曲でここまで異世界に紛れ込んだのは、彼らのライブでもこれまでなかったことだ。
むしろ不穏なイントロの「永遠の複製」で我に返るほど、その明晰夢のような世界が強力だったということか。そして不穏で冷徹な怒りを投げる楽曲と同様の破壊力がここまでの演奏に備わった証左なのだと思う。とは言え、ライブの定番曲である「永遠の複製」もちょっとトラウマになるほどメンタルを刺激するライティング。血の赤を思わせる背景と、メンバーを照らすグリーンの対比はどこか狂気的。しかも後半にはその色合いに生気が満ちてくるという、高度な演出にあっけにとられる。そして限りなく冷静に音の強度を増した「dnim」と最近の圧強めなハードなナンバーが違和感なくつながっていく痛快さ。ギターもベースもスネアさえも同じトーンで聴く者を圧迫する「鉄の夢」の金属的なイメージ。愚直なまでに高速のカッティングで増幅される狂気。4人の演奏は曲に殉じている。まるでそれが当たり前であるかのような態度が、曲の強度を破格に高めるのだ。
そこで感じたのは、表現とはどんなものでも本来、接した者は傷つくということだった。悪い影響とか悲しみという意味ではなく、何かが残る。そういう意味でもう傷だらけなのだ、真剣にステージに見いれば見入るほど。さらに破裂する打音の強度が確実にフロアに作用しているのが見て取れる「dogma」も凄まじかったし、暗闇を進む乗り物めいた淡々としたビートに、時に耐えかねて悲鳴を上げるようなケンゴのノイジーなロックなギター、シャウトというにはギリギリ意味を取れるような小林の絶唱も、その場で灰になってしまいそうな渾身の演奏だった。「Wire(Fahrenheit 154)」の最後の一音が消えた瞬間、フロアは一瞬、反応できないほど圧倒されていた。と、同時にこれまで冷徹なニュアンスで受け止めていた(いくばくかのユーモアももちろん感じるのだが)、<生きているのを忘れていても その心臓は止まったりしない>(「Wire (Fahrenheit154」)、<あそこの水は甘いとか 隣の芝生が青いとか 「どうでもいいぜそんな事柄」>(「鉄の夢」)といったフレーズへの納得感がこれまでの比じゃなかった。恐らくそれは前半の穏やかな印象の楽曲の強度が増したせいもあるんじゃないだろうか。
ここまで「ありがとう」以外の言葉を発してこなかった小林が11曲を終えて、ようやく話し始めた。シングル「今日も生きたね」をリリースして新曲を届けられた手応え、このツアーで共演したバンド、アーティストへの感謝、ここで今日出会えたオーディエンスへの感謝。そして「ART-SCHOOLとストレイテナーがいなかったら、今の僕はいない」と明言。特に上京前、高松と「東京に行ったらART-SCHOOLとストレイテナーの2マンとか見れるねとか言ってて。ふたりとも大好きなベーシストなんですけど、日向さんのことを”ひゅうがさん”って間違って読んでたんですけど、すみませんでした」と笑いを誘う。「でもその2マンが今日になっちゃったっていうね」と小林が高松に振ると、「そうだね(笑)」と嬉しそうに返すしかない高松。今や同じフィールドに立つバンド同士ではあるけれど、やはり挑戦者の気持ちがどこかにあったのは確かだ。
全編を通して今のTHE NOVEMBERSの力量をもってして、正反対のニュアンスを持った楽曲が見事に同じ俎上で聴ける納得感を得た上で披露された「今日も生きたね」が、ただの本当のこととして届いたのは、いや、届けたのは彼らの今回のツアーの意図だったのではないか。朝日にも夕日にも見立てられるオレンジのライトの中で、<美しい>という言葉が額面どおり、美しく感じられる演奏と歌。そう感じられるのもここまでの曲の流れがあってこそなのだと思う。音源のアレンジ通り、なんの飾りも大げさな展開もなくただ静かにいいメロディが心に灯った。
静かな興奮からかパラパラと起こるアンコールの拍手。それがむしろこのライブに対する正直なリアクションだろう。笑顔でステージに戻ってきた彼らは、アンコールで意外なレパートリーを披露した。「Misstopia」だ。発表当時は歌が意図している本質より現実逃避的に聴こえたのは、個人の感想でしかないが、<昨日までの世界のすべて いまの僕らの持つものすべて>を壊して先に行こう、と歌うこの曲はこの日、再び誕生したように、THE NOVEMBERSのこれからを示唆していた。曲が言いたいことを今の肉体と表現力で獲得したのだ。なんて見事な流れだろう。
余韻に浸るフロアに向けて、スクリーンには「あなたのデータをアップデートする準備はできていますか?」と英語で表示。そして秋のツアーとそのツアーの前にニユーアルバムがリリースされることが知らされる。ああもうホントにとっとと先に行くんだな、THE NOVEMBERSは。やられたな、そして最高に刺激的だ。
Report : 石角友香
今回、ラッカは、缶バッヂとトートバッグを制作しました。
【SET LIST】
1.彼岸で散る青
2.Flower of life
3.Reunion with Marr
4.ブルックリン最終出口
5.ウユニの恋人
6.philia
7.永遠の複製
8.dnim
9.鉄の夢
10.dogma
11.Wire (Fahrenheit 154)
12.今日も生きたね
Encore
En.Misstopia