indigo la End 絵画と声 vol.3 ~さようなら、素晴らしい世界~
indigo la End
絵画と声 vol.3 ~さようなら、素晴らしい世界~
2012.6.22(Fri) @下北沢SHELTER
indigo la Endのライヴを観ていると、ふっと頭をよぎる言葉がある。それは「浮遊感」という言葉。別に彼らの音楽は、フワッとしているわけでも、シューゲイズ的な揺らぎや浮上や沈殿感があるわけでもない。ましてやダブポップ的なエフェクティブなスカイウォーキング性などは皆無に等しい。しかし、彼らの音楽のあの淡さや透明感、うたかた具合は、何故だか僕に「浮遊感」という言葉を想起させる。
ここで例える浮遊感は、けっして感覚/体感的なものではなく、むしろ言葉の雰囲気や響きの方。それは、ふっとした一瞬の上昇感や下降感、すっと夢に吸い込まれそうになる、あの感覚に近い類。それらは、ボーカルの川谷絵音の透明感を擁しながらも、時々ふっと宙に浮くような瞬間を見せる歌唱や、しっかりとボトムをキープしているオオタユウスケによるドラムや都度スタイルの違うサポートベースたちのリズム隊の上、自由に泳ぎ回るように装飾を加えていく、長田カーティスのギタープレイヤビリティに寄与してのことかもしれない。
ボーカルで作詞/作曲を手掛ける、川谷絵音が歌を通し描き出す心象風景や心像描写、どこかそれを遠巻きで悲しい物語のように語っていて、ついには思い返したように、聴く者がその物語に同調したり、はっとさせられたり、思いを馳せさせる彼らの音楽。そこで描かれる悲しい物語や淡い物語、そして幻想的な物語たちは、実際にその物語自体が呼ぶ哀しみではなく、それを歌う自分の寂しさや哀しさ、それがいつしか本当の自身の物語へと変わっていくかのように、僕たちを聴く毎に、寂しくさせたり、哀しくさせたり、ハッと気づかされたり、何かを諭してくれたりする。だから彼らの歌は、後々思い返し、込み上げてくるものばかり。気づけば、各曲で歌われている、<ここではないどこか感>が、いつしか、自分の立っている、この場所へと変わっていたりする。
この日は、彼らの自主企画「絵画と声」の第三回目。4月11日に発売された彼ら初めての全国流通作品となったミニアルバム『さよなら、素晴らしい世界』の発売記念のライヴだった。KEYTALKを迎え行われた今回の企画は、両バンドへの期待値の高さも手伝いチケットは早々にソールドアウト。当然、会場である下北沢シェルターは、立錐の余地もないほどの満員具合だ。KEYTALKのライヴも終わり、間もなく彼らのライヴが始まるといった程良い緊張感が漂う中、みんなが心の中をザワつかせている。
今回、彼らの初となるTシャツを制作した我がラッカは、CDジャケット用に作られたイラストを、あえてそのまま使わずにパーツパーツに分け、リデザインを施した。また、Tシャツのボディの色は彼らのバンドの持つ透明感やフワフワとした雰囲気やジャケットの淡い感じを踏襲。中間色に染め上げたボディを起用した。
ピアノによる空間性のあるいつものSEが場内に流れると、彼らの登場を待つ緊張感が場内に満ちる。呼び込まれた静寂の中、ステージにメンバーが現れると、その緊張感や緊迫感が一気に解き放たれるように、ほっとした安堵感と共に無数の歓迎の拍手がメンバー各人に向けられる。
「今日の日をむちゃくちゃ楽しみにしてました」と、川谷が一言。と同時に、美しいギターアルペジオと、透明感を携えた優しい歌声にて、「夢で逢えたら」を歌い始める。優しげながら、キチンと通る歌声と、主人公の心象描写が満杯の会場の一人一人に染み込んでいく。「♪夢で逢えたら♪」のリフレイン部では、ドリーミーな展開を交え、会場をうっとりさせつつも、途中にてそれが豹変。場面を急転させるように、長田がカタストロフィーなギターを加えていき、オオタのドラムが怒涛さを楽曲に呼び込む。その激しさの揺り返しも手伝い、再び曲のテーマに戻る頃には、更に楽曲が優しく、ドリーミーに響いてくる。ドラムとベースの繋ぎから「緑の少女」のイントロに。歌に入ると、楽曲に色彩が加わっていく。「♪恋をした~♪」のフレーズのリフレインが楽曲を色づけていく。ドキドキした気持ちや甘酸っぱい気持ちが込み上げてくる中、サビの伸びやかなストロークとストレートさが狭いライヴハウスの空間に、とてつもない開放感を芽生えさせていく。
ドラムがゆったりとした8ビートで繋ぐ。そこにじゃらーんとゆったりとしたストロークを乗せ、川谷が「夜の公園」を歌い出す。ベースとドラムがそこに加わると楽曲に更なる生命力が加わり出し、その上を長田のギターアルペジオが泳ぐように絡まっていく。この曲では川谷もファルセットを効かせたボーカルを披露。会場を夜の公園でのかくれんぼの場面へと誘う。アウトロでは激しさも伴い、光景がグワッと広がっていく。「♪僕の番は来ないかな 探してばっかで疲れたよ ああ、聞いてないや♪」というところで曲は終わり。ポツンと取り残された感じが心の内側に、ぴったりと張り付いてくる。
ノイジ―に楽曲をかき乱し、その中からドラマティックなイントロが現れる。続いては、「レナは朝を奪ったみたいだ」だ。これまでよりもはっきりとした歌声も印象的な同曲。間には三拍子を交え、曲に物語性を加える。ギターの長田のプレイアクションも徐々に激しさを増していき、怒涛のパートに突入すると、その激しさとは対照的に川谷が抒情的にポエトリーリーディングを乗せる。そして、ポツリと「おかしな世界だよ」のフレーズが会場をハッとさせる。ラストにはゲストベースのコーラスも加わり、ニ声のハーモニーが楽曲と歌にふくよかさをもたらす。もう一度イントロのテーマに戻るところは、何度聞いても鳥肌ものだ。そして、「ジョン・カーティス」のイントロが始まると、サウンドに乗せ、川谷がポエトリーリーディングを始める。変拍子を交えたオオタのドラミングの上、長田のギターがフリーキーに泳ぎ回る。ここでは川谷も発狂的なギターソロを魅せ、それが会場の高揚感をまた1ランク引き上げる。加え、変拍子交じりのギター&ベースがユニゾンでプレイされるところも会場を魅了していた。
「久しぶりの曲を演ります」とプレイされたのは「彼女の相談」。歌われるさよならが、ことさらさよなら感を醸し出しており、とてつもない寂しさが身体を包む。まだまだ話たいことや相談したいことがあったのにとの思いが、恋しさや愛しさを伴い、マジックアワーの光景を瞼の向こうに広がらせる。ラストのハミングが、その実悲しく寂しいであろうに、まるでそれをごまかすように響いていた。
ベースが印象的なフレーズを放ち、始まった「Warhol」では、ベース&ドラムのループの上、歌とギターが泳いでいく。途中からの川谷によるポエトリーリーディングが会場の胸を締めつけ、言葉のつぶてがフロアにぶつけられ、続く長田の激しい滝のようなギターソロが会場を襲う。なす術もなく全身でその事実を受け止めるかのように立ちつくすオーディエンスたちの姿が印象的であった。
ここでMC。川谷が自分が以前、ライヴで興奮し、抑えきれずに気づいたらモッシュしていた時の話を始める。そして、9月5日に次のミニアルバム『渚にて』がリリースされることを告知。近いうちに地方にライヴをしに行く際に、飛行機に乗っての移動に言及し、かつて自分は肺が3度も破れたことがあることが告白される。
そして、以前からあった曲「she」を、今回はリアレンジしたバージョンで行うことを告げ、プレイに入る。ギターのアルペジオのアンサンブルも特徴的、「♪トム・ヨークの声が懐かしいな♪」のフレーズが聴く者の耳を惹く。リフレインされる「♪泣きそうだ♪」の歌フレーズは、その川谷の歌唱も手伝い、併せて色々なことを思い返させ、会場全体を本当に泣き出したくさせる。最後は3声の効いたハーモニーで美しく締める。
ノンストップで勢いのあるナンバー「秘密の金魚」に突入すると、深いエコーやリバープのかかったギターの上、川谷がポエトリーリーディングを強く、優しく、柔らかさと激しさを交えて語る。赤い色を中心としたライティングが楽曲を盛り立てている。本編ラストは柔らかく優しい「素晴らしい世界」で締め。「♪さようなら 素晴らしい世界 こんな僕も入れてくれて だけどこれからは一人で生きてくよ♪」と、大丈夫と泣きそうになりながらも、自らに言い聞かせるように歌う川谷。間違いなくこの日のクライマックスだ。ラストはメンバー3人がステージを降り、残された川谷が一人ノンマイクで心細くなりながらも、「♪大丈夫 そうだ♪」と、力強く自分に言い聞かせるようにリフレインし、フェードアウトしていくが如く歌う。みんな固唾を飲んで、彼が繰り返す、そのフレーズを見守っている。
アンコールは2曲。「懐かしい曲をやります」と「大停電の夜に」を歌い始める。予断だが、この曲は僕が初めてindigo la Endにキチンと接した曲。去年の6月、代々木のライヴハウスでのことだ。某女性ボーカル&ギターの女性を擁した4ピースバンドの解散ライヴにて、彼らを初見。その日は来場者全員に、その日出演したバンドの代表曲が1曲づつ入ったCD-Rが配られ、その中にこの「大停電の夜に」も収まっていた。その日は、僕も打ち上げまで参加したので、もしかしたら終演後、メンバーとビールを注ぎ合っていたかもしれない(笑)。
話がそれてしまった。ポエトリーリーディングと歌、激しさ、歌声でアクセントをつけつつも、ラストのシフトアップしていく感じがたまらない。
「Indigo la Endをこれからもよろしくお願いします」と川谷。ラストは穏やかでたおやかな2本のギターのアルペジオによるアンサンブルも特徴的な「雫」で締め。僕は僕のまま、マイペースで行くよ、とでも歌われているような、彼らのこれからへの宣言のようにも響く同曲。光を取り戻していき、「♪明かりをつけて歩いてく 行こうか♪」の呼びかけのような、前向きに響くフレーズが、彼らのこれまでの喪失感や疎外感が中心の歌の中、逆に新鮮に響く。ここまでアンコールも含め12曲がプレイされたが、これまでの曲からはあまり感じられなかった、初めて相手が近くに居て、その人に向けて歌われているように感じられた。ラストはとてつもなく広がっていき、果てしなく広がっては、会場を景色の良い高みへと誘ってくれた。
先述の「浮遊感」の言葉が気になり、もう一度辞書で色々と調べてみた。
大半は、「浮く」や「漂う」、「安定しない」や「彷徨い歩く」等、おおよそ予想のつく、ふわふわした感じの意味ばかりだったのだが、その中でも一つ、”えっ!?”と思えるものを見つけた。それは「疎外感」という意味。
漂ったり、彷徨ったり、浮いたり、沈んだり、孤独に思ったり…。彼らの<ここではないどこか>的な心象風景を描き出しているような音楽から、何故「浮遊感」という言葉が思い浮かんだのかが、なんとなく分かった瞬間だった。
Report : 池田スカオ和宏
【SET LIST】
1. 夢で逢えたら
2. 緑の少女
3. 夜の公園
4. レナは朝を奪ったみたいだ
5. ジョン・カーティス
6.彼女の相談
7.Warhol
8.she
9.秘密の金魚
10.素晴らしい世界
Encore
En-1.大停電の夜に
En-2.雫
【MEMBER】
Vo/&G. 川谷絵音
G. 長田カーティス
Dr. オオタユウスケ
【Profile】
2010年2月、VoGt川谷絵音を中心に結成。
2010年2月24日の初ライブ後、月2~3本のライブをこなしていく。ロッキングオンの主催するRO69 JACKでの2度の入賞やCINRA の主催するexpopへの出演、自主企画「絵画と声」の開催などで着実に集客を伸ばしてゆく。3枚のデモをリリースしディスクユニオンにて委託販売を行なうと、4週連続で週間チャートに入り、売り切れ店が出る程の反響を受け、デモ盤ながら異例の売上を記録。
2012年2月15日には或るミイとの共同主催イベント「バースデイ」を開催。ゲストにTHE NOVEMBERSを迎え、即日完売の大盛況となる。4月11日初のミニアルバム『さようなら、素晴らしい世界』を発売。スペースシャワー列伝への出演、初の全国ツアーを経て、レコ発東京公演@下北沢SHELTER(with KEYTALK)はSOLD OUT。9/1には初の大型野外フェスSWEET LOVE SHOWERへの出演も決定。
同年9月5日には、2ndミニアルバム『渚にて』を発売する。
【NEW ITEM】
2nd mini album
「渚にて」
PECF-3027
¥1,500(tax incl)
[eninal]
01. 楽園
02. レナは朝を奪ったみたいだ
03. 海辺カラス
04. 渚にて幻
05. el.
06. 雫