Laika Came Back「 薫風の目 」
Laika Came Back
「 薫風の目 」
2012.5.6(Sun)
@Mt. RAINIER HALL SHIBUYA PLEASURE PLEASURE
風は色々なものを乗せ、運んでくれる。
香り、匂い、懐かしさや嬉しさ、季節感やその折々の気候具合…。時には、便りや噂なんてものも…。
特に春から夏にかけての季節の風には、それらをいっそう感じる。
「薫風の目」とタイトルされた、Laika Came Backの今回のコンサート。薫風(くんぷう)とは、季節の頃なら初夏。芽吹き、育った枝葉が、風に若葉の香りをただよわせて、我々の下に吹いてくるさわやかな南風のこと。そして今回の彼のライブは、その薫風に限らず、色々なタイプの風を感じさせてくれた。
穏やかな風、柔らかい風、優しい風、温かい風、冷たい風、ブリザードや向かい風、そして、何もかもを巻き込むような嵐のうな風が突然現れたかと思えば、それらを越えたあとに訪れる、いわゆる、凪もあったり…。
最初に私が観た彼のワンマンライヴは、ベースとパーカッションを交えた3人編成だった。昨年末の2回目のワンマンでは、エフェクターのサンプリングループや自作のバスドラの音を交えながら、終始座りながらの一人編成。そして、今回はオープニングに映像が流される中、ステージには、スタンディングの位置に設置してあるブームマイクが一本だけ。これまでの2回に共通して在った椅子の用意すらない。この前回、前々回とのステージの変わり様からも、この日のライブが、これまでの2回のライブとも違った心象を受けるであろうことが予感できた。そして、その演出や効果、 それを受けての楽曲の感じ方や受け止め方等々、この日のLaika Came Backのライブも、過去2回観た彼のライブのいずれとも違った印象を私に与えてくれた。
今回のコンサートに当たり、我がラッカは、ネイビーのビッグトートバッグ、黒のナイロン製のバッグ、ニューTシャツを制作した。毎度のことながら、今回もCozyとディスカッションをしながら作り進めていった今回のグッズ。ナイロンバッグは、折りたたんでコンパクトになり、携帯しやすい仕様のものを製作し、ニューTシャツは、文字間や文字サイズ、フォントの種類等、細部にまでこだわった。また、ビッグトートの方は、今まで通販でしか販売していなかったものを、「一般発売して欲しい」との沢山の方々からのリクエストに応える形で、会場販売が実現したもの。こちらはナント、一つ一つCozyの直筆サインが入っているというプレミアものであった。
海外であろう。のどかな川っぺリのような映像が先程よりステージ後方のスクリーンに大写しされている。そして、寄せては返す波の音。もうその時点で、会場にはゆったりとしたリラックスな雰囲気と時間が流れている。
そんないつものここではないどこかの光景を眺め、その空気感に浸っていると、ふらっとその映像をバックにCozyが、いつものスモールスケールのアコースティックギターを持ち現れ、ブームマイクの前に立つ。やはり今日は一人きりで、しかもスタンディングで歌うようだ。
アルペジオをサンプリングし、それをループさせ、その上に爪弾きを乗せていく。1曲目として彼のライヴでは、もはやオープニングの定番と言える 「Humming」が、優しさを帯びた歌声にて歌い出される。歌い出されるとは言っても、この歌の場合は、タイトル通り終始ハミング。が故、聴き手も各々がそれぞれの風景を思い浮かべながら、そこに自分たちなりの言葉や物語を広げていく。まるで、その映像の光景の中で歌われているかのようだ。同曲の2番からは、自作のバスドラを踏む音が加わっていく。そのまま、つまびきは続けられ、次の「Snadai Khmer」に。先程の優しく柔らかく降り注いていく日差しに加え、ちょっとした明るさと希望、そして生命力が会場にジワジワと満ちていく。特にこの曲の 2番からバスドラが再び踏まれるところでは、微かな力と躍動感、英気なんてものも溢れ出てくる。加え、ほろっとした優しい気持ちが、心から会場へとこぼれ、溢れ、その喜びや嬉しさが自分に伝染してくる。どうやら嬉しい気分や笑顔になっていくのは、私だけではないようだ。見回すと周りのみんなも同様に微笑んでいる。
曲はそのまま「George」に。親愛なる親友のジョージに対するシンシアリーが牧歌的な曲調の中、綴られていく。柔らかく優しげなアルペジオの上、一番では英語詞で、二番では日本語詞で、綴られていく敬愛。ホームスイートホームな雰囲気がパーッと場内に広がっていく。
一旦、Cozyがギターと共にステージを去る。
背景が春のうららかな一日の映像に変わる。お花見の光景だろう。天気の良い昼に、みんなが大きな桜の樹の下に集い、宴を繰り広げている遠景が映し出される。
そんな華やいだ雰囲気をバックにCozyがステージに戻ってくる。まるで花見の宴の中、一曲ポロンと弾き語ってくれるような光景だ。前回のワンマンで未発表曲として披露された「桜花」がここで歌われる。「明日、晴れたらどこに行こう。明日晴れたら何をしよう」「みやげ話に花を咲かそう」と歌われる同曲。それに際し、各々が、”もし晴れたら何をし、どこに行こうか?”を思い浮かべる。きっと、多くの人が、久しく会っていない友人に会いに行きたくなったのではないだろうか。続いての「あいうえお」では、毎度のことながら、日本語の美しさと、50種の文字を使った、無限に広がっていく言葉たちと、本当に大事だったり、必要だったりするのは、実はシンプルで、日常使われている言葉であろうことに改めて気づかされる。この歌を歌い終えると、Cozyは、またもやステージを後に。代わりにステージにシェードランプが持ち込まれ、 さながらそこは、Cozyの部屋に招待されたかのよう。椅子に座り、まるで今日一日の出来事をゆっくりと思い返すように、まだタイトルのない新曲を弾き始める。椅子に座ってということもあるのだろう、これまで以上にゆったりリラックスした雰囲気や心持ちの中で歌われた同曲。とは言え、ここからの曲は、 けっして、その部屋を訪れた者と指し向かいで披露されるタイプの曲たちとは趣きが少々違っていた。これまでになかったちょっと速めの4つ打ちの上、これまたこれまでになかった躍動感やブレイブさ、そしてスリリングさが楽曲にオンされていく。この曲では、これまで味わうことの出来なかった高揚感に加え、ギターソロも披露。みんな椅子に座ってはいるが、きっと気持ちは前のめりであったことだろう。
次も新曲。こちらもまだ名前は無いらしい。ギターのボディを叩いた音をリアルサンプリング&ループで作り出したビートの上を、ギターを乗せていくインストナンバーだ。ラストに向かうに連れて、波紋が段々と大きく強くなっていくようにギターソロが会場に広がっていく。ここでもアウトロでは、哀愁性溢れるスパニッシュなタッチのギターが客席を魅了。ラストはCozy自身も高揚したのか?立ち上がりギターを弾く場面も。そして、その立ったまま、爪弾き、歌い出す。続いては「終列車」だ。赤いライトがCozyの姿を後ろのスクリーンに映す。ラストは狂暴的にギターをガツンと鳴らされる。
そして再び、今度は馬の駆けるようなギターのタップをサンプリングループさせ、その中から次の「駿馬」が現れる。力が漲ってくるような雄大で壮大な同曲。途中からはディストーションギターも交じり、会場をそのカタルシスと共に高見へと連れていく。曲が進むに連れて、荒々しく強まっていくそのストローク。会場がそれにグイグイと引っ張られ、引き寄せられていく。ピタッと曲が終わると、少し遅れて静けさがやってくる。シーンとした静寂が会場を包む。そして、思い出したかのように、我に返った会場から遅れて送られる拍手。それを背に、Cozyはまたステージを去る。
場面は吹雪の映像に。今度はパーカーを着、そのフードをしっかりかぶった、いかにも寒そうなCozyがステージに現れる。次は「Trace」。 冬を歌いつつ、しっかりとその先の春を感じさせる曲だ。
場面は初夏に。海岸線の映像が映される。さっきのパーカー姿の寒々とした格好がら一変。今度は明るく、そしてTシャツ姿という先程とは全く正反対な格好のCozyがやってくる。次の「Southern Cross」では、潮騒をバックに歌がゆっくり確かに会場全体に響いてくる。
時間は夕刻へ。バックの映像も、夕景の岩場の海岸線へと変わる。Cozyが昔から大好きだったという郷愁性溢れる唱歌「遠き山に陽は落ちて」が、遠い記憶を懐かしげに思い返させるよう歌われる。同曲の醸し出す雰囲気とバックの映像が非常にマッチングし、会場が夕景感に包まれていく。
そして、森の上に広がる星空の映像。時間はすっかり夜だ。ラストはまるで永遠の星空に抱かれていくような「Landed」。これまでは着地したかのような、戻ってきたかのような安堵感を同曲より受けていたのだが、この日ばかりはバックの映像を見ながらということもあったのだろう。着地した地上から、また次の土地や空へと旅立って行くような気持ちになっていた。
この曲で本編は終わり。どことなく戻ってきたかのような安堵と、また新たな旅に出たくさせるそのディパーチャ―な気持ちが会場に満ちる。
ステージから姿が去っても鳴り止まない拍手の中、出てきて、一度深くお礼の仕草を見せるCozy。 客電はついたままの中、出来たばかりだという新曲が歌われる。ここまで映像をバックにプレイしてきた彼。ここでは装飾や脚色は一切ナシで、その歌のみで世界観を伝える。まずはボディをタップし、それをサンプリング。その上を華やいだギターカッティングが泳ぐ。明るさを多分に有した同曲。合わせて歌も伸びやかに広がっていく。ラストは力強く、明日や未来へのビジョンを残してくれたのだった。
映画館のような会場の雰囲気も手伝い、バックの映像と共に、より歌世界に近い感じや、歌物語との同化を想像し、挑んだ今回のライヴ。終わってみると、楽曲との同化はあったのだが、逆にこれまでとは違った響きや意味合いが自分の中で導き出されていた。それはきっと彼の歌がそれだけフレキシブルで、聴き手の心象風景に溶け込む要素を多分に持っているということなのだろう。確 かにこの日、僕はCozyのチョイスした映像の中、彼の歌を聴いた。しかし、そこに広がっていたのは、彼の映像の向こうを通り越して、自分の脳裏に広がった、原風景だったり、そこに佇んでいる自分の姿だったりした。
人の歌が自分の歌へと変わる瞬間があると、よく耳にする。その例えの多くは、自分のことを歌われていると感じることに帰来してのことが多いが、私はこの日、それらとは違った面で、彼の歌に自分を感じた。Cozyの歌う各曲と、その物語の中、佇んでいる自分…。Cozyはいったい誰の為に歌を歌っているのだろう? 人の歌が自分の歌へと変わる。その意味をなんとなく見つけた気がした一夜だった。
Report : 池田スカオ和宏
【SET LIST】
01.Humming
02.Snadai Khmer
03.George
04.桜花
05.あいうえお
06.新曲
07.新曲
08.終電車
09.駿馬
10.Trace
11.Southern Cross
12.遠き山に陽は落ちて
13.Landed
Encore
En-1.新曲
【PROFILE】
Cozy による音楽を中心としながら、社会活動、その他ライフスタイル全般を含めたプロジェクト。2011年9月7日、1stアルバム『Landed』発売。2012年1月1日より、cross fm 2012年GREEN LINEオフィシャルキャンペーンソングとして、未発表曲「桜花」が1年間オンエアー中
【NEW ITEM】
FIRST ALBUM
『Landed』
XQKQ-1001
¥2,500(Tax in)
NOW ON SALE
[Muttnik/PARCO CO.,LTD.]
1. Coming Home
2. Humming
3. Landed
4. Trace
5. Snadai Khmer
6. あいうえお
7. George
8. 終電車
9. 駿馬
10. Southern Cross