凛として時雨「TOUR 2010 “VIRGIN KILLER」
凛として時雨
「TOUR 2010 “VIRGIN KILLER」
@新木場STUDIO COAST
2010.11.1(Mon)
凛として時雨のニューアルバム『still a Sigure virgin?』は、良い意味でショックだった。明確なシークエンスの導入曲の出現や、アコースティックギター主体の曲の現れ、極端にソフィスティケイトされたTKの歌声の曲の登場等、今までとは違った色々な方法論や新しい試みを多々導入していながらも、極めて彼ららしいアルバムに仕上がっていたからだ。聴き進める度に、”えっ!?”とか、”おっ!?”と、驚きながらも、作品全体としては、けっしてそれらは<凛として時雨>という実態を脅かしてはおらず。むしろそれらがあることにより、より幅やスケール感を増させた。なんというか、<してやられた>けど、<時雨ならではの作品>。とにかく、僕の描く<凛として時雨像>を更に大きく、更に深くさせてくれたことは確かだ。
結果、このアルバムは発売週のアルバムチャートで、ロック勢では快挙と言える「オリコン第1位」を獲得した。そう、あの音楽性で、である。しかし、これはけっして今回の作品が<突出したポピュラリティを持っていた>とは、僕は捉えていない。むしろ逆。よっぽど聴き手をスポイルせずに、キチンと自らを体現する作品でさえあれば、今回の作品がどんな内容だろうが、多くの人に受け入れられていたであろうと思う。なぜならば、彼らの音楽の根底には、どこかにキチンと<人恋しさ>を有しており、そこからは狂おしいほどの”分って欲しい””理解して欲しい”が伝わってくるからだ。そして、それは例えどんな耳ざわりでもけっして変わらない。それが今回、多くの人に求められた要因にちがいないと僕は思っている。そう、時雨の音楽は決して聴き手をスポイルする音楽ではない。”理解して欲しい””分って欲しい”、”だけど、僕はこんな形でしかそれが表せられないんだよ”。そんな言葉や想いが曲の端々から溢れ出てくる音楽だ。そして、それを彼らのライブでは、より強く感じたりもする。
時雨ライヴをご覧になった方なら分るだろう。彼らのライヴはまさに二極化。会場前方に押し寄せ、激音にまみれ、激しく呼応する者と、その後方には、彼らの放つ音塊に身を委ね、世界観に浸る者の二種だ。しかし、勘違いして欲しくない。後方にいる人々も、けっして<彼らのライブに対して熱心/積極的ではない>、というわけではない。彼らの放つ世界観は、聴き手を支配し、浸らせ、その圧倒さにただ立ちつくすしかない。だから、ある者は前方にてそれに抗い、ある者は後方で浸っているのだ。試しにその両者に尋ねて欲しい。きっと両者は異口同音に、「我を忘れて楽曲の世界観に入りこんでいた」と言うにちがいない。そう、彼らのライヴや音楽性は、聴く者を惹き込んでは、我を忘れさせ、その世界観の中で存在させる力を大いに持っている。
そして、そして。VIRGIN KILLER Tシャツと、その七分袖Tシャツ、フェイスタオル、インデックスクリアファイル、バッヂ、新色携帯ストラップ、パーカー等、我がラッカは彼らの今回のツアーでも色々とグッズを作らせてもらった。
開演時間の19時ジャスト。いつものように、ライヴ前の注意事項や案内等の影アナをピエールが行う。わざとちょっとカミ気味&台本棒読みに会場も大爆笑。これまで彼らの登場を待っていた多少の緊張感もほどけ、会場が和む。いかにも彼らしいジョークとエロの交じった影アナだ(笑)。ラストは一声。彼のキャッチフレーズである「セイ バイブス」でキメる。
場内に再び3人の登場を待つ緊張感が張り詰める。ザワザワしつつも、ピーンと糸を張ったかのような緊張感。それが逆に心地良かったり、ゾワゾワさせる。
そうこうしているうちに場内がスーッと暗くなり、いつものようにハーシュノイズの中、ベルの無数のサンプリング音が会場中に流れ、エマージェンシー感を煽る。青いライトでぼんやりと浮かび上がったステージに3人が黙々と登場。会場からウォーッと大歓声が上がるも、次にやってくる一音を待ちかまえるため、カウンターのように張り詰めた緊張感が再び会場を支配する。その緊張を突き破るように、TKのサディスティックなギターと歌い出しからライヴが始まる。緊張の糸が吹っ切れたように、逆にその反動で場内は、”待ってました!!”と起爆。いつものように、フロア前方に押し寄せる塊と、後ろ側で、それらまでもを含めた有事を視認せんとばかりに、見入る人たちとに分かれる。TKのハイトーンなボーカルと345の歪んだベース。ピエールの打ち出すズズンとくるドラムが、1曲目から会場にカオスを生む。続いてのナンバーでは、早くも場内に無数のコブシが上がる。白い発光から青い発光へと場内が変わり、点滅するランプに浮かび上がる3人。バスドラとフロアタムの連打に場内は高揚しっぱなしだ。345のコーラスも柔らかく鋭利に刺さる。そして、ピエールのスティック回しさばきと力強いスネア中心のビートから始まったナンバーでは、345のチョッパー気味のダウンピッキング・ベースと、TK、345によるツインボーカル性を活かしつつも、緩急と時折のブラストビートが目まぐるしく交差する。サビの切ないメロディとそれをかき消すようなTKのシャウトがたまらない。織り交ぜられる新曲たちもけっして負けてはいない。作品以上に怒涛性と臨場感が加わった感のある「Can you kill a Secret?」では、場内に無数のダイブを起こし、「シークレットG」では、場内を切り裂くようなTKのギターカッティングと、それとは対照的にその後現れたTKの優しい歌が印象的であった。アルバムでは優しく響いた曲も、ライヴだと違った印象を受ける。
ライヴ中盤では、彼らのライヴでの人気曲たちが炸裂し、場内の温度もグワッと上がる。合わせて密度もより濃くなり、フロアの中間部にその2層の間のエアポケットのように、隙間が出だす。TKのギターソロも会場を引きつらせ、切なく響く。そして、そのカウンターとも言えるサビのストレートさに、会場は一際盛り上がる。よりギターもヒステリックに悲鳴を上げ、ラストに向かう怒涛性と、そこから一瞬フッと和らぎ、そこから再びテーマに戻る瞬間は何度聴いてもゾクッとさせられる。ピエールも一打一打スティックを回しながらスネアを劇打する。ラストの”これでもか!!”との怒涛性に会場もサディスティックに呼応する、怒涛の高速ビート・ナンバー等が放たれる。
この日は、やはり新作からの曲も、ライヴならではの表情や形態を持って伝えられる。TKのライトハンドにも歓声が一際上がった「this is is this?」。「eF」に至っては、ベース345、エレキギター ピエール、アコギTKの編成にて、クリスピーなギターストロークの上にピエールのエレキの爪弾くフレーズが乗り、TKのハイトーンも、この曲ではファルセットのように柔らかく、優しく、温かく響く。
そして後半。まずはTK、345の2人がステージから一時去り、ドラムセットに乗ったピエールが、恒例のMCを始める。ここからはまさに彼の独壇場。昨日がちょうどハロウィンであり、バカ殿に仮装したことを告白。オレンジのハッピを着て、そんな昨日の格好を再現してくれる。そして、ここからはお馴染みのバイブスのコール&レスポンス。間にはXジャンプも交え、それを呼び声に怒涛のドラムソロに突入。場内が地響きを起こす。
怒涛のナンバーは続き、ステージ前方の密度も上がる。ヒステリックに豹変し、シャウトするTKの歌が場内に狂気とカオスを生んだ曲や、345のベースラインにTKのパラレルなフレーズが場内をダンスフロアに変え、そのダンサブルなビートで会場を一斉にタテに踊らせた彼らのライヴでの定番曲、サディスティック度の度数も上昇し、TKに加え、345の歌声にもヒステリック度が上がっていく曲等が立て続けにプレイされた。
345がここで物販に関してのインフォメーションを。タオル、クリアファイル等、いつものごとくたどたどしくアナウンスしてくれる。いつもながら不慣れな感じなのだが、彼女はそのままで良い。そのフッと浮かんだ不思議な空間に、みんなが微笑ましく、心の中で”頑張れ!!”の声援を送る。
ラストは消え入るような、それでいて自身のアイデンティティや存在感を確かめるような壮大でいて、壮絶なナンバーをプレイ。ノイジ―で力強いサウンドの上、立ちつくすフロアの人々。そして、フィードバックノイズを残し、3人はステージ後にした。当然、いつものようにアンコールは無し。
と、こんな感じで関東での初日のライヴを終えた彼ら。今回の作品が中心になるだろうことは予想出来たのだが、それをそのままの世界観で表わすのか?それとも壊してかかり、<ライヴ版時雨>として新たなる形として提示するのか?その辺りも今回のライヴでは楽しみなところでもあった。結論を伝えると、彼らはアルバムでの新しい取り込みのライヴでの上手い再現はもちろん、それに留まらない更なるインディビデュアル性、そして拭っても拭うことの出来ない時雨っぽさを、そこにブレンドし、<ライヴならではの楽曲>として我々に提示してくれた。
まだまだ、今回の彼らのツアーは続いていく。もし、これから行かれる方は、そのライヴならではの楽曲たちを、是非その身体全体で体感して欲しい。前方に押し寄せ、激音にまみれ、激しく呼応するのか? 音塊に身を委ね、その世界観にどっぷり浸るのか?それは、その時の時雨の世界観に接したアナタの身体に任せたい。
Report : 池田スカオ和宏
【MEMBER】
凛として時雨
VOCAL&GUITAR: TK
BASS&VOCAL: 345
DRUMS: ピエール中野
【Profile】
2002年埼玉にて結成。その後、メンバーチェンジを経て現メンバー編成となる。2004年3月初の全国ツアーを経て、DEMO音源を2000枚以上売り上げる。 2005年11月 自身のレーベル「中野Records」を立ち上げ、待望の1st album「#4」(ナンバーフォー)を始め、2枚のアルバム、1枚のミニアルバム、1枚のシングルをリリース。2008年12月、1曲16分+フォトブック仕様の 2ndシングル「moment A rhythm」をSony Music Associated Recordsよりリリース。2009年5月、3rdアルバム『just A moment』をリリース。5月には”last A moment”ツアーを、11月からは全国ZEPPツアー“Tornado Z”を敢行。各所大成功を収める。2010年1月からは全国ライブハウスツアー”I was music”を行い、そのスーパーファイナル公演として、彼らの単独ライヴでは最大規模のライヴをあえて彼らの地元・さいたまスーパーアリーナにて4月17日に行う。同年9月22日、4thアルバム『still a Sigure virgin?』を発売。同作品はオリコン・アルバムチャート第一位を獲得。快挙を成し遂げる。10月21日より全国ツアー“VIRGIN KILLER”スタート。
【Package Item】
4th FULL ALBUM
『still a Sigure virgin?』
AICL-2174
¥2,800(tax-in)
NOW ON SALE
1. I was music
2. シークレットG
3. シャンディ
4. this is is this?
5. a symmetry
6. eF
7. Can you kill a secret?
8. replica
9. illusion is mine