「ひとりぼっちは丸ごと自分を愛せるチャンス」RADWIMPSの『絶体絶命』

RADWIMPS
NEW ALBUM
『絶体絶命』
TOCT-27061
￥3,059(Tax in)
【EMIミュージックジャパン】
NOW ON SALE

「私はひとりきりが好き。ひとりきりは自分をまるごと愛せるから」

これは、ヴィム・ヴェンダース監督の代表作『ベルリン天使の詩』の後半に出てくる、ヒロイン役のソルヴェーグ・ドマルタンのセリフだ。

初めてこの映画を観てから20年ちょっと。このセリフは、今だ僕の映画名言ランキングの上位に君臨し続けている。過去この映画が好きと言う人たちと、熱い話をしたことがあるが、みな、このセリフの話を出してもピンとこなかったり、思い出せないようであった。なので、もしかしたら、これは僕だけに特別に響いた言葉なのかもしれない。

僕はラッドウィンプスのこのニューアルバム『絶対絶命』を聴き、セリフの内容や真意、上述のその後の自身のシチュエーションを含め、先述のセリフをズーッと思い出していた。

ラッドの今回アルバムは今まで以上に圧倒的に「ひとりぼっち」な感じがする。そして、そのひとりぼっちは、結局丸ごと自身を愛しているのだとも。それがどの曲もぽつんと取り残された感覚や一抹の寂しさを残しながらも、どこかボーッとした暖かさや光を感じさせ、同じ者同士、似た気持ちの仲間のような気がしてくるのだ。ひとりぼっち同士のつながりというか、ひとりぼっちを感じているからこそ分かりあえる者同士というか…。とにかく寂しいんだけど、圧倒的に温かくて優しい。そんな感覚を聴いている間中、僕を包んでくれた。

世界や命という大儀を内包した曲もあることはあるが、基本いつものように、＜あなたとわたし＞＜きみとぼく＞で成り立っている感のする今作。そう、そこには個なりの繋がりに満ちていて、それが痛々しさを伴ったリリックが多いにも関わらず、逆にそれらに救われた感や安堵感になったりする。

青い空を感じられる解放感と、軽い4つ打ちのビートが適度な上昇感や上向き感を与えてくれるサウンドと、何にも染まらないように、何でも溶けるようにと、重くではなく軽快に生きようとのメッセージがうかがえる「透明人間18号」。2本のギターがパラレルに泳ぎ回り、あえて軽快なビートがどことなくブレイブ感を生む、自分を突き動かしたり、後押ししたり、引っ張ってくれることを歌う「君と羊と青」。ギターを中心とした優しく温かいギターの爪弾きを中心にあえてウォームな伝達方法の上、みんなと自分、世界と自分、ひとりぼっちについて深く考えさせる「だいだらぼっち」。うって変わって、ドラマティックなギターロックサウンドの上、その他大勢的に映りながらも、自分の世界の中では、自分こそが主人公だというアイデンティティについて、例え豊かに激しく歌う「学芸会」。

スピーディな16ビートの上、前にしか進めないし、時間は進むしかないことを改めて考

えさせられる、未来に向かうことに抗いたい気持ちを内包しつつも、その向こうの真理に出逢う「グラウンドゼロ」。いつもあってしかるべきと思っていたものが、実は当たり前ではなく、何か巨大なものに生かされているんじゃないかと、優しく諭してくれる「ものもらい」。サビのストレートさと起爆さがたまらないダイナミックなロックサウンドもライヴで映えそうな「億万笑者」。そして、君が僕の宇宙であり世界なんだと、改めて気づいたと歌う「救世主」他、全14曲を収録。

そして、忘れてはいけない素晴らしさの一つが今回のブックレット。長戸鉄也氏が手掛けたその冊子は、まるで各曲の雰囲気をくみ取り、それをフォントの級数や並べ方、ボールドのかけ方によって、それぞれ楽曲に沿ってグラフィック的に表わされている。そして、それを一つにまとめ、ジャケットとして成り立たせているセンスとアイデアには脱帽だ。

今、ひとりぼっちで寂しいと嘆いているあなた。それを嘆くことなかれ。なぜならひとりぼっちは、自分を丸ごと愛せる機会であると同時に、そんなひとりぼっちを感じているどこかの誰かと繋がれるチャンスなのだから。

うん、ラッドウィンプスを一人で聴きたくなるし、逆にライブはみんなと観たくなる理由がなんとなくわかった。

【池田スカオ和宏】

【SONG LIST】

1. DADA（dadadada Ver.)
2. 透明人間18号
3. 君と羊と青
4. だいだらぼっち
5. 学芸会
6. 狭心症
7. グラウンドゼロ
8. π
9. G行為
10. DUGOUT
11. ものもらい
12. 携帯電話（Cat Ver.)
13. 億万笑者
14. 救世主